| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) D05-08  (Oral presentation)

アジア広域に分布するブナ科植物における開花結実フェノロジーの緯度クライン 【B】
Latitudinal cline of flowering and fruiting phenology in Fagaceae 【B】

*新井健太(九州大学), 矢原徹一(九州OU), 佐竹暁子(九州大学)
*Quenta ARAYE(Kyushu University), Tetsukazu YAHARA(Kyushu Open Univ.), Akiko SATAKE(Kyushu University)

開花・結実時期は植物の繁殖成功に関わる形質である。温帯では気温や日長が季節変動し、植物はこれに応答して周期的な繁殖を行う。その一方で、熱帯地域では環境の季節変動が小さくなり、植物の周期性も不明瞭になると考えられる。しかし、一つの分類群に注目し、開花・結実時期の緯度に応じた変化を調査した例はほとんどない。その理由の一つとして、温帯から熱帯まで広く分布する分類群が限られていることが挙げられる。この課題を解決するため、本研究はアジア広域に分布するブナ科植物に注目した。ブナ科は開花・結実データが蓄積しており、フェノロジーの緯度変化調査に適した材料である。中国、タイ、マレーシア地域について、ブナ科の代表的な三属(Quercus, Castanopsis, Lithocarpus)の開花・結実データを文献から収集した。開花・結実両方のデータが利用可能な中国220種、タイ94種、マレーシア地域121種を解析した。その結果、中国ではQuercusCastanopsisが5月に開花種数のピークを示した。タイではピークが早い時期に移動して4月となり、マレーシア地域でピークが消滅した。開花期間はCastanopsisLithocarpusでは南下するほど長くなったが、Quercusではそのような傾向は見られなかった。結実種数は中国において10月に集中し、タイではピークが早い時期に移動し、マレーシア地域ではピークが目立たなくなる傾向があった。加えて、三属とも南下するほど結実期間が長くなった。次にアジア20地点の気象データを利用し、開花・結実フェノロジーが気象要因(気温・降水量)で予測できるかを検討した結果、中国では三属とも気温と降水量を組み合わせたモデルの予測性が高かったが、マレーシア地域ではいずれの気象要因も予測性向上には寄与しなかった。総合すると科レベルの季節性は低緯度ほど不明瞭だった。


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