| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-03  (Oral presentation)

クロマルハナバチの視力検査:花の色と密度が遠方からの識別におよぼす影響
Visual acuity tests of bumblebees: Effects on identifying flower color and density from the distance.

*上原麻衣花, 大橋一晴(筑波大学)
*Maika UEHARA, Kazuharu OHASHI(Tsukuba Univ.)

 多くの花を咲かせる植物には、ポリネーターがより頻繁に訪れる。この古くからよく知られる現象のメカニズムは、実はまだよくわかっていない。本研究では「複数の花が集まると視覚的に融合し大きなかたまりとなり、遠方からでも見つけられるようになり訪問者の数がふえる」という仮説の検証を目的として、Y字迷路に設置した人工花序をクロマルハナバチに選ばせて、検出限界(検出可能な最も遠い距離)を測定する室内実験を行った。仮説の通り花数にともなう誘引力が視覚融合に由来するのであれば、多くの花が密に並んだ花序ほど、遠くから検出されやすいはずである。また花の色特性によって、検出限界が異なる可能性もある。そこで実験には、以下の4タイプの人工花序を用いた:青い花(円形の紙)3つが密に並んだ花序A、青い花3つがまばらに並んだ花序B、青い花1つからなる花序C、黄色の花1つからなる花序D。花間距離は、Rパッケージpavoのprocimg関数を用いて、マルハナバチの視像において花序Aは融合し、花序Bは融合しないように調節した。これらの実験の結果、推定された検出限界は花序A > B > C > Dの順となった。3つの花が密に並んだ花序Aが、まばらな花序Bや単花序Cよりも遠くから検出されたという結果は、視覚融合に基づく今回の仮説を支持する。つまり、多くの花を咲かせた植物は、大きなかたまりとして遠くからでも検出されやすくなり、結果としてより多くのポリネーターを誘引できるものと考えられる。花の数や配置によって検出可能な距離が変わるという今回の結果は、広告サイズによるポリネーター誘引のメカニズムを初めて明示するだけでなく、花序の形態形質がもつ進化的な意味にも光を当てる、興味深い知見である。誘引効果を高める花序の形成は、今回の花序Dのように遠くから見つけにくい色特性をもつ花においては、とりわけ重要となるかもしれない。


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