| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) H03-07  (Oral presentation)

メタ群集での共存における安定化効果と均一化効果
Stabilizing and equalizing effects determine the competitive outcome in metacommunities

*篠原直登(弘前大学), 勝原光希(岡山大学)
*Naoto SHINOHARA(Hirosaki Univ.), Koki KATSUHARA(Okayama Univ.)

  多くの種の共存を可能にするメカニズムの解明、すなわち「多種共存」という問いは、生態学の中で中心的な研究課題の一つである。そのメカニズムとして代表的なニッチ分割や中立性は、前者は形質の種間での非類似性、後者は種の類似性というように相反した前提を持つ。近年整理が進む理論枠組み(:Modern coexistence theory, MCT)では、これら2種類のメカニズムを統合的に扱い、種間の競争能力の差の小ささ(:均一化効果)、負の頻度依存性(:安定化効果)という二つの効果を考え、共存可能性は両者のバランスで決まるとする。
  これまで、複数の局所パッチが個体の分散によって結合するメタ群集において、パッチごとの環境異質性や、限られた分散距離(:分散制限)によって共存が可能になることが理論的に知られてきた。本研究ではこれら既存の知見をMCTの枠組みで捉え直し、メタ群集における2種の競争を想定したシミュレーションモデルで、環境異質性や分散制限が、①どのような共存メカニズムをもたらすか、②さらに安定化・均一化効果のどちらによって共存が可能になるかを検証した。
  従来の予測通り、環境の異質性と分散制限は、競争や密度の空間的なばらつきを生み出し、空間的なストレージ効果などによって2種の共存を促進した。環境異質性と分散制限は強い安定化効果をもたらしていた一方で、種間の増殖率の違いを大きくしていた。これは、競争的に優位な種の方が、劣位な種と比べて、空間的な環境や競争の異質性から得られるメリットをより多く享受できていたためである。本研究から、環境異質性と分散制限は、不均一化効果をもたらすにも関わらず、強い安定化効果によってメタ群集での共存を促進するという新たな知見が得られた。


日本生態学会