| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) I02-04  (Oral presentation)

外来遺伝子の長期的な存続:北海道常呂川のサクラマスと外来アマゴの浸透交雑を例に
Long-term retainment of non-native genes: introgressive hybridization among masu salmon subspecies in the Tokoro River, Hokkaido

*福井翔, 長谷川功, 佐藤俊平(水産資源研究所)
*Sho FUKUI, Koh HASEGAWA, Shunpei SATO(Fisheries Resources Inst.)

 外来種と在来種の雑種が生殖可能である場合,遺伝子浸透が生じる。数世代が経過した雑種個体は純血種との外見判別がつきづらいため,我々の想像以上に外来遺伝子が浸透・拡散している可能性がある。サケ科魚類サクラマスは,典型的な生活史二型を示し,河川で一生を過ごす河川残留型と海へ降る降海型が同一個体群から出現する(河川生活中の個体はヤマメともいう)。本種の自然分布域である北海道常呂川水系では, 1987-1989年に本州から降海性が低い亜種アマゴが移殖された記録があり,2006-2007年の調査で外来アマゴからの遺伝子浸透が報告されている。しかし,その後の状況は不明であるため,本研究では,先行研究と同様に,分布調査と遺伝解析を実施した。
 2020年10月12日から15日に,常呂川の本支流を含む計21地点で電気漁具を用いた捕獲調査を実施した。捕獲個体は,アマゴの特徴である体側の朱点の有無を記録し,脂鰭を採取した。脂鰭からDNAを抽出し,10座のマイクロサテライトマーカーを用いて遺伝解析を行い,調査地点ごとに各亜種の遺伝子頻度を調べた。
 供試魚595個体のうち,アマゴの特徴である朱点が確認されたのは2個体のみであったが,34個体で5~75%の外来アマゴ遺伝子が含まれていた。したがって,外見のみによる亜種判別は交雑の影響を過小評価する可能性がある。今後は,アマゴからの遺伝子浸透が,サクラマスの生活史,すなわち降海型の出現率低下を招いているのか検証する必要がある。


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