| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-005  (Poster presentation)

温度上昇によりもたらされる在来トンボ幼生と侵入トンボ幼生間の種間関係
Interspecific interactions between native and invading Odonata larvae caused by the warming

*長野光希(近畿大・農), 石若直人(近畿大院・農), 橋本洸哉(国立環境研), 早坂大亮(近畿大・農)
*Koki NAGANO(Fac. Agr., Kindai Univ.), Naoto ISHIWAKA(Grad. Sch. Agr., Kindai Univ.), Koya HASHIMOTO(Natl. Inst. Environ. Sci.), Daisuke HAYASAKA(Fac. Agr., Kindai Univ.)

温暖化による温度上昇は,低緯度に分布する生物の北上につながる.また,生物の捕食行動は周囲の温度で変化する.これは,分布を北上して侵入する種(侵入種)が,侵入先において,温度上昇に対して在来種よりも適応的である可能性を示唆する.そこで本研究では,餌資源や生息環境を共有する侵入種-在来種間で捕食率を異なる温度帯で比較し,温度上昇にともない侵入した生物と在来種との種間関係の優劣を明らかにした.
 目的達成にあたり,侵入種としてベニトンボ(徳島県産)を,在来種としてシオカラトンボ(奈良県産)を選定し,両種の幼虫を用いて試験した.両種の捕食率におよぼす温度の影響を明らかにするため,温度を操作して両種の単位時間あたりの餌生物(ブラインシュリンプの幼体)の捕食量から捕食率を算出し比較した.温度処理は,奈良県における最暖月の平均気温(27.0 ℃)を基準とし,IPCCの温暖化シナリオを参考に,2 ℃,4 ℃上昇させた(計3温度帯).なお,試験は(1)各種の幼虫が独立して存在,(2)同一環境下で共存,の2つの生息条件下で実施した.
 試験の結果,独立条件下では,ベニトンボは温度上昇にともない捕食率が有意に上昇したが,シオカラトンボの捕食率には温度帯間で有意な差はなかった.また,27 ℃ではシオカラトンボの捕食率はベニトンボより有意に高かったが,31 ℃になると逆転した.共存下では,ベニトンボの捕食率が温度上昇とともに有意に上昇する一方,シオカラトンボの捕食率は温度の上昇にともない有意に低下した.さらに,ベニトンボによるシオカラトンボへの一方的な捕食がどの温度帯でも確認された.これらは,ベニトンボとシオカラトンボとの種間関係の優劣が,温度上昇にともない入れ替わることを示唆する.以上より,温暖化による温度上昇かつベニトンボの侵入は,在来種(少なくともシオカラトンボ)に対して競争的置換を引き起こす可能性が高いと考えられる.


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