| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-007  (Poster presentation)

出芽酵母の糖代謝変異株の共培養が個体群増殖に与える影響
Effect of mixed culture of two metabolic phenotypes on population growth in Saccharomyces cerevisiae

*太田甫(千葉大・院・融), 大谷一真(千葉大・院・融), 松浦彰(千葉大・院・理), 村上正志(千葉大・院・理), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Hajime OTA(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Kazuma OYA(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Akira MATSUURA(Grad. Sci., Chiba Univ.), Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

生物集団においてみられる種の多様性や種内の遺伝的多様性は、資源分割や捕食リスクの分散などを通じて集団のパフォーマンスを向上させることがある。このような多様性の非相加的効果は多様性効果と呼ばれる。多様性効果は、それぞれの種あるいは表現型に対する選択圧の働き方や、資源競争の程度によって変化する可能性が指摘されているが、これを裏付ける充分な証拠はない。一方で、種内での多様性に起因する多様性効果については、生存率などの世代内で測定されるパラメータをもとに多様性効果が推定される場合が多く、個体群動態などのデータにもとづいて多様性効果を調べた例はほとんどない。本研究では、遺伝子操作による表現型の作製が容易であり、世代時間が短く個体数増殖の観察に適している出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を材料とし、糖代謝に関する2つの表現型を用いて、個体群動態に対する多様性効果を測定した。まず、ガラクトース代謝遺伝子GALの発現に正の制御を行なうGAL3、もしくは負の制御を行なうGAL80の上流に、恒常発現プロモーターを形質転換により導入し、ガラクトース代謝を行なうGAL-ON株、グルコース代謝を行なうGAL-OFF株という2つの表現型を作出した。これらをガラクトースとグルコースの濃度を変えたさまざまな培養条件において、それぞれの株の単独培養あるいは2株の混合培養を行ない、45時間後(6〜9世代経過後)に個体数を推定した。このとき、多様性効果は、「混合培養の個体数」と「2つの単独培養の個体数の加重平均」の差として算出される。すると、一定以上の初期個体数で培養した場合に正の多様性効果が見られたが、初期個体数が小さい場合に負の多様性効果が見られた。また、ガラクトースの濃度によって多様性効果の大きさが変化することがわかった。これらの結果は、増殖初期における資源競争の強さや、資源の構成比によって多様性効果の方向性や程度が変化することを示唆している。


日本生態学会