| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-018  (Poster presentation)

近畿地方産オオセンチコガネにおける地理的色彩多型の歴史的集団動態
The demographic history of the geographic color variation of Phelotrupes auratus in the Kinki district

*荒木祥文, 曽田貞滋(京都大学)
*Yoshifumi ARAKI, Teiji SOTA(Kyoto University)

近畿地方に生息するオオセンチコガネ(Phelotrupes auratus)は、3つの遺伝的系統(湖西、湖南、湖東)と3つの色彩型(赤、緑、瑠璃)の組み合わせによって、5つの地域集団(湖西赤色型、湖東赤色型、湖南瑠璃色型、湖南緑色型、湖南赤色型)に分化している。しかし、湖南系統の3集団の間の遺伝的分化はこれまでの研究では示すことができておらず、P. auratusの色彩型がどのような過程を経て分化してきたのかは明らかにされていなかった。そこで本研究では、新規に作成したドラフトゲノムを利用した全ゲノムリシーケンシングによって、ゲノム全域から網羅的にSNP情報を取得し、これら5集団の歴史的集団動態のシミュレーションを実施した。

その結果、約3400年前に湖西赤色型がその他の集団から最初に分化したことが示唆されたが、湖東赤色型が湖南系統と分化したのは約1200年前であり、湖南系統の3集団の分化はこの600年以内に生じていることが示唆された。また、現在の5つの地域集団の間には有意な遺伝子流動はなく、地理的に隔離されていることが示唆された。日本列島は最近の2500年間は大規模な気候変動に晒されていないことから、P. auratusにおける地域集団の分化、および稀な形質である瑠璃色型および緑色型の地域集団内への固定の急速な進行には、急増したヒトの活動による餌資源(糞)をもたらす大型草食動物の減少や、生息地の断片化が関与した可能性がある。


日本生態学会