| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-019  (Poster presentation)

個体群密度の自動制御を目指した人工生態系の構築
construction of artificial ecosystems aimed for auto-controllable population dynamic

*砂川純也, 白又拓也, 山口諒(北海道大学大学院)
*Junya SUNAGAWA, Takuya SHIRAMATA, Ryo YAMAGUCHI(Hokkaido Univ.)

環境ストレスに対する微生物の適応・進化を定量的に観測するために、培養系は有効な手段である。培養系は測定環境を正確に制御できることや、大量の個体群データを得られることが求められ、多くの研究が展開されてきたが、以下のような技術的な問題点が懸念される。例えば一般的なバッチ培養系はハイスループットでかつ短時間で作業することができるが、手動の操作が多いため正確性に欠ける可能性がある。また、ケモスタットやタービドスタットを搭載したバイオリアクターは正確な制御は可能だが、ロースループットであり、多様な実験デザインに応じて逐一改良することは難しい。

そこで本研究では、個体群密度の自動制御を行う、ハイスループットな人工生態系(以下、本系)を、Wong et al. (2018, Nat. Biotech.)を参考に構築した。本系は独立な培養系を複数並列で操作することが可能である(本研究では最大16集団)。各培養系はLED、赤外線センサーを用いて培地中の個体群密度(OD600)を監視し、一定の閾値に達したところで培養液を機械制御により自動で入れ替えることで、個体群密度を一定の帯域に保つ。さらに、温度・攪拌速度の値を静的・動的にコントロールすることが可能であり、従来の実験では困難であった培地環境の正確な制御を行いつつ、ハイスループットを実現する連続培養系である。本講演では、本系の有用性を示すために様々な温度域で出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを培養した例を紹介する。数理モデルによる増殖速度の推定や、先行研究との比較を行い、熱ストレスが酵母の個体群動態に与える影響を考察した。本系は制御系のカスタマイズが可能であり、例えば、温度・攪拌速度に加えて、培養液のpHや塩分濃度を自動コントロールするように改良することもできる。今後は上記の改良と並行で、独立であった培養系同士にフィードバック制御を導入し、絶滅しないギリギリの環境ストレスに対抗しうるパラメータ群の探索にも取り組む予定である。


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