| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-036  (Poster presentation)

シカ採食による植生変化と地上徘徊性甲虫の応答
Responses of ground-dwelling invertebrates and the associated plant communities to deer overabundance

*桐下正隆, 森章(横浜国立大学)
*Masataka KIRISHITA, Akira MORI(Yokohama National University)

森林での撹乱要因として植食者であるシカによる植生変化が挙げられる。特に、世界中で報じられているシカ個体群の過剰な増大による植生被害は、植物群集だけでなく生態系全体に影響を与える可能性がある。しかし、地上徘徊性甲虫のような従属栄養の生物への影響については評価が進んでおらず、その結果としての生態系機能への帰結も良くわかっていない。地上徘徊性甲虫は直接植物を摂食するわけではないものの、間接的に生息地や資源として周囲の植物を利用している。特に、サイズの大きな種や個体が果たす生態系機能は大きいことが知られている。その一方でこうした大型の種や個体は撹乱に対して脆弱であることも報告されている。これら地上徘徊性甲虫のサイズ形質がシカ採食によって改変された植生に対してどのように応答するのか、そのメカニズムはまだよくわかっていない。
そこで本研究では、知床国立公園内の幌別天然林において、シカの採食圧から植物を保護するため設置された防鹿柵が甲虫群集に与える影響を評価した。調査対象地では、防鹿柵の設置によりシカ採食圧がない場所と、柵外のシカ採食下の場所とに二分されている。採取できた地上徘徊性甲虫をオサムシ科、シデムシ科、ハネカクシ科に分類し、それぞれの科ごとに防鹿柵内外の2群間で個体数と全長を検定した。またシカ採食による環境改変の指標として植生データと環境要因を測定し、変動分割を行って地上徘徊性甲虫の全長と個体数への説明力を評価した。結果、小型のオサムシ科が多数生息している防鹿柵外に比べて、防鹿柵内では大型のオサムシ科、シデムシ科が生息していることがわかった。これらの結果は、シカの過採食による植生の減少が大型地上徘徊性甲虫の分布を制限する要因であることを示唆しており、撹乱による群集集合のパターン解明に貢献できると期待される。


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