| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-042  (Poster presentation)

イノシシの撹乱が照葉樹林の土壌動物群集に与える影響:安定同位体比を用いた評価
Effects of wild boar disturbances on soil animal community in the evergreen forest: evaluation using stable isotope values

*大原秀斗(同志社大学), 原口岳(大阪環農水研・多様性), 長谷川元洋(同志社大学), 豊田鮎(香川大学), 佐藤重穂(森林総合研究所 四国), 大園享司(同志社大学)
*Shuto OHARA(Doshisha Univ.), Takashi HARAGUCHI(RIEAFO, Biodiv), Motohiro HASEGAWA(Doshisha Univ.), Ayu TOYOTA(Kagawa Univ.), Shigeho SATO(FFPRI Shikoku), Takashi OSONO(Doshisha Univ.)

土壌の撹乱は林床植生や落葉層の変化を通して土壌動物の餌資源を変化させ、摂食を通じて働く土壌動物の生態系機能に影響を及ぼす。本研究はイノシシの掘り返しに伴う土壌の撹乱に着目し、食物網解析の手法として広く普及した安定同位体分析と群集解析により、撹乱に対する土壌動物の応答を評価した。土壌食物網内では落葉の分解や栄養段階の上昇に伴い、炭素・窒素安定同位体は濃縮されるため、土壌動物のδ13Cやδ15Nの変化はその餌資源の変化を可視化する指標となる。そこで、イノシシによる地下茎や根、土壌動物といった地下部の餌の探索に伴う土壌の掘り返しの影響を除いた排除区を設定し、内外の土壌動物の群集構造および安定同位体比を比較した。
高知県土佐清水市の佐田山国有林に90 mのライントランセクトを設け、10 mおきにイノシシ排除区としてステンレス網かごを10点設置し、網かごから2 m以内に対照区を定めた。網かご設置直前(2019年7月)と設置2年後(2021年8月)に各区で深さ5 cmの土壌コアを採取し,土壌動物を抽出した。同位体は目・亜目レベルで集めたトビムシ、トゲダニ、ササラダニと落葉(2 mmメッシュを通過しない粗大有機物)のδ13C・δ15Nを測定し、処理区間の差を解析した。群集構造の解析はケダニを加えた4分類群の土壌動物を対象に行い、トビムシは種レベルの解析も行った。
ササラダニのδ15Nが設置2年後のイノシシ排除区で有意に増加し、撹乱に伴う土壌の撹拌で植物遺体食者を含むササラダニは、未分解のδ15Nが低いリターの摂食頻度が増加したことが示唆された。4分類群の個体数は設置2年後のイノシシ排除区で有意に増加し、冗長分析で内外のトビムシの種組成の差異を解析した結果、設置2年後でのみ有意差が得られた。以上よりイノシシの撹乱は土壌の撹拌を通して、土壌動物群集の機能や多様性に変化をもたらすことが考えられた。


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