| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-046  (Poster presentation)

南部九州における標高傾度に沿った有剣ハチ群集の変化
Changes in Aculeata communities along elevational gradients in southern Kyushu

*上森教慈, 菱拓雄(九州大学)
*Kazushige UEMORI, Takuo HISHI(Kyushu Univ.)

有剣ハチは花粉媒介や捕食・寄生による食物網の制御、天敵防除など、重要な生態系機能を担っている。この機能は気候変動などの環境変動により失われる可能性があるため、有剣ハチの群集形成や多様性喪失機構の解明は危急的な課題である。また、異なる機能を持つ食性ギルドごとに環境変動に対する応答は異なる可能性がある。本研究では、有剣ハチ類を3つの食性ギルド(送粉者、捕食者、寄生者)にわけ、標高傾度に沿った群集変動の違いについて明らかにすることを目的とした。
九州脊梁山地、高隈山地、肝属山地において、標高200m~1,600mの範囲に標高の異なる20の調査地を設定した。各調査地に20枚のイエローパントラップを設置し、48時間後にトラップされた有剣ハチを回収した。出現種の季節変動を考慮するため、梅雨前(5月~6月)、梅雨後(7月~8月)、秋(9月~10月)の異なる3季節で調査を行った。機能形質は、栄養段階、出現期間、平均体サイズ、出現標高範囲、営巣場所、土壌依存性、分布域の緯度方向への偏りの6つについて検討した。解析は3回の季節で得られた個体を地点ごとにプールして行った。有剣ハチ全体と食性ギルドごとに、種多様性(Simpson’s index)、機能的多様性、群集加重平均(CWM)を地点ごとに求め、標高に沿って線形回帰した。
141種1447個体を得た。有剣ハチ全体および各食性ギルドの種多様性は標高上昇に伴い増加した。送粉者では出現期間や体サイズの多様性が増加したが、形質値の傾向はなかった。捕食者は出現期間や標高範囲の多様性が増加し、分布域指数のCWMが減少した。寄生者は栄養段階の上昇、土壌依存性の低下、分布域指数の減少がみられた。送粉者や捕食者の機能的多様性の増加は高標高でのニッチの多様化を示唆したが、応答形質の違いから重要な支配要因は異なることが示唆された。同様の種多様性パターンを示す場合でも、群集の支配要因は食性ギルドごとに異なることが示唆された。


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