| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-069  (Poster presentation)

巻貝の捕食者回避行動に注目した3種間関係
Triadic prey-predator interactions in intertidal gastropods

*冨吉啓恵, 和田哲(北海道大学)
*Hiroe TOMIYOSHI, Satoshi WADA(Hokkaido Univ.)

捕食-被食関係は生態系の根幹をなす種間関係であり、進化・行動生態学でも主要な研究トピックとして扱われている。特に被食者の捕食者回避行動は、ほとんどの場合、捕食者と被食者の各1種を対象として研究されてきた。しかし野外では、ほぼ同じ場所に生息する2種以上の被食者が共通の捕食者に遭遇することがある。一部の動物では、同種他個体の存在が「薄めの効果」としてはたらき、被食者の回避行動を弱めるとされる。他種他個体の存在もまた、対象種の被食者の回避行動に影響を及ぼすかもしれない。演者らは、海岸の巻貝に注目してこの仮説を検証する。
函館湾西岸、葛登支岬周辺の海岸には、小型巻貝のクロスジムシロガイ (ムシロ)、ヤマザンショウガイ (ヤマ)、チグサガイ (チグサ) と、3種を捕食する肉食性巻貝のヒメエゾボラ (ヒメ) が生息する。3種のうちムシロにかかるヒメの捕食圧が最も高く、チグサが最も低い。発表では、ムシロの回避行動に注目した実験を紹介する。まず、ムシロ1個体 (記録個体) と同種5個体 (同種群)、ヤマ5個体 (ヤマ群)、チグサ5個体 (チグサ群) のいずれかを、砂を敷き詰めた実験水槽に静置した。これらの3群を、さらに、カゴに入れたヒメを投入する捕食者条件、あるいは空カゴを投入するコントロール条件に分割した (計3 群×2 条件×50 例)。記録項目を (1) 潜砂、(2) 這い出し、(3) その他とし、カゴ投入前後における記録個体の行動変化を比較した。その結果、捕食者条件の同種群では、潜砂率は72%から78%の変化に留まった。一方で、ヤマ群では65%から82%、チグサ群では61%から92%と、有意な上昇を示した。
つまり、ムシロの回避行動は潜砂であり、周辺の他個体の種に応じて回避行動の強度を変えると考えられる。これは、捕食者-被食者間の非消費効果に、他種の被食者が関与することを示した研究といえるだろう。


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