| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-078  (Poster presentation)

タゴガエルのメスはどのように同種オスのコールを聞き分けるか?
Cues in advertisement call to recognize a conspecific male by a female Tago's brown frog

*井ノ上綾音(京都大学)
*Ayane INOUE(Kyoto Univ.)

繁殖の場面で、発信者は自分の情報をシグナルにコードし、自らを異性にアピールする。受信者はシグナルに基づいて発信者を受け入れる、あるいは拒否する。特に、似たシグナルを持つ不適切な発信者がいる場合、適切な発信者を正しく認識することは適応度に大きく影響する。
 タゴガエルは日本に広く分布するアカガエル科の1種であるが、遺伝子解析により複数の隠蔽種を含むことが分かっている。基準標本を含む「真の」タゴガエルと隠蔽種が同所的に分布する個体群が複数あり、体サイズなどに形質置換が起こっている。この種間では過去に遺伝子浸透があったと考えられているが、現在では形態的・遺伝的に別種とみなせるほどに分化している。形質置換は、繁殖干渉や競争により引き起こされ、しばしば交配前隔離により促進される。無尾類において広告音は同種を認識するための手がかりとなり、不適切な発信者がいた場合に認識の基準に強化が起こることがある。したがって、「真の」タゴガエルと隠蔽種間において、広告音を用いた同種認識の強化が種の分化を促進したのではないかと推測される。
本研究ではタゴガエルの交配前隔離機構として広告音は機能しているのか、また広告音のどの形質を用いて同種認識をしているのかを調べることを目的とした。その結果、「真の」タゴガエルは異種を正しく拒否するが、隠蔽種は「真の」タゴガエルも誤って受け入れた。このとき、「真の」タゴガエルは優占周波数とノート間間隔の2つの手がかりを用いて同種を認識した。優占周波数は種間で中程度の重複があり、また隠蔽種のコールは1ノートのみから成る場合もあるためすべてのコールにノート間間隔が含まれるわけではない。各々は十分な手がかりではないが、2つの手がかりを合わせることで「真の」タゴガエルは隠蔽種を正しく拒否できると考えられた。


日本生態学会