| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-081  (Poster presentation)

ブラウントラウトの行動睡眠
Behavioral sleep in brown trout

*古澤千春, 小泉逸郎(北海道大学)
*Chiharu FURUSAWA, Itsuro KOIZUMI(Hokkaido Univ.)

動物はなぜ眠るのか?睡眠はエネルギー節約や組織の回復など生態学的-生理学的機能をもつといわれているものの、その適応的意義はよくわかっていない。近年、睡眠にかかる淘汰圧を推察するために、野生環境における睡眠パタンの種内変異が注目されている。睡眠時間やタイミングが大きく異なる生物は睡眠のコストとベネフィットを検出しやすいため、適応的意義を明らかにするうえで適したモデルになるはずだ。
本研究では、日周性の種内変異が大きいサケ科魚類ブラウントラウトの行動学的な睡眠(行動睡眠)を調査した。行動睡眠は次の特性によって定義される:①典型的な休息姿勢,②刺激に反応しにくい,③睡眠阻害によるリバウンド(恒常性調節).本種は水中で遊泳する以外に,河床に体の一部をつけて静止する.静止はサケ科魚類では休息姿勢として認識されている①。静止が行動睡眠に相当するか調べるために,北海道大学苫小牧研究林のかけ流し式水槽を用いてブラウントラウト(mean±SD = 148±5.7 mmFL; n = 26)を個別に飼育し、観察および操作実験を行った.
まず,48時間の行動観察より,3種類の日周性が確認され(夜行性,昼行性,周日行性)、静止が生じるタイミングは個体によって異なった.次に,昼間(8, 14時)と夜間(20, 26時)で個体に機械刺激を与え,反応までの時間を調べた.夜間では違いがみられなかったが,昼間は静止の方が遊泳よりも反応しにくかった②.最後に,夜行性および周日行性個体を対象に昼間に強制遊泳させ,夜間に静止時間を調べた.その結果,強制遊泳させた処理区は、対照区に比べて静止時間が長くリバウンドが生じた③.
以上から,典型的な休息姿勢である静止は、反応しにくく、恒常性によって調節されるため、睡眠に相当する。また、睡眠のタイミングには大きな種内変異があった.したがって、本種は睡眠の機能を調べる有用なモデルになりうる.


日本生態学会