| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-084  (Poster presentation)

体色のイロんな役割-ホソミオツネントンボの活動性と体表温度の関係-
The relationship between body color and body temperature in the damselfly Indolestes peregrinus

*長谷部有紀, 横井智之(筑波大学・保全生態)
*Yuki HASEBE, Tomoyuki YOKOI(Univ. of Tsukuba)

 トンボには成虫期に体色が変化する種が多く存在する。この変化は成熟に伴って一方向的に起こり、体色が交尾可能個体を認識する際の手がかりとなる場合が多い。一部の種では、可逆的に体色変化が生じることが知られており、その生態的意義として主に体温調節が考えられている。ただし、変化が起こる条件や変化時間は種によって異なるため、先行研究で挙げられた意義がどの種にも該当するとは限らない。水田などを生息地とするホソミオツネントンボは、繁殖活動期間の夜間から朝方にかけては褐色を、日中は青色を呈する可逆的体色変化を示す。演者らのこれまでの研究で、本種の青色は種内認識におけるシグナルとして機能することが示唆されている。一方褐色は、活動開始前に呈することで光を多く吸収し、体温を上昇させ、活動開始を容易にしている可能性がある。そこで、本研究では「褐色は飛翔のための体温上昇を促進する」という仮説の検証を行なった。まず、本種の体色そのものがもつ効果を調べるために、周辺環境要因を排除した室内実験を行なった。青色および褐色を呈した個体に赤外線ライトを照射し、体温の指標となる体表温度を経過時間ごとに測定することで、光吸収による体温上昇の速度を体色間で比較した。また、野外環境下における体色の機能を調べるために、野外実験を行なった。褐色を呈している通常個体と体色処理(黒塗りと青塗り)をした個体の野外における体表温度や飛翔行動を記録し、環境要因が体温を介して飛翔に与える影響を体色ごとに評価した。その結果、室内実験では褐色個体の体温上昇が青色個体よりも速かった。野外実験では、環境要因が体温を介して飛翔に与える影響は体色間で大差がなかったが、青塗り個体の飛翔時刻は通常個体よりも遅かった。以上より、本種が呈する褐色が野外環境下で果たす機能は確認できなかったが、体温上昇を促進する効果をもつ可能性が示唆された。


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