| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-116  (Poster presentation)

北海道東部沿岸域に生息するチシマラッコの採餌場選択
Foraging habitat use by sea otters in the eastern coast of Hokkaido

*落合彩月(北海道大学), 鈴木一平(北海道大学), 三谷曜子(京都大学)
*Satsuki OCHIAI(Hokkaido Univ.), Ippei SUZUKI(Hokkaido Univ.), Yoko MITANI(Kyoto Univ.)

 ラッコ(Enhydra lutris)はかつて日本からカリフォルニアまで北太平洋沿岸に連続的に分布していたが、毛皮を目的とした乱獲により絶滅寸前まで減少した。20世紀以降世界的に資源管理の対象として扱われるようになり、生息域、個体数とも劇的な回復を果たしている。近年、日本でも北海道東部沿岸においてラッコの目撃情報が複数報告され、再定着が進んでいると考えられている。しかし、ラッコはウニ、カニ、および貝類など高カロリーで漁業価値の高い生物を大量に捕食するため、個体数回復に伴う漁業との競合が懸念されている。そのため、ラッコと漁業の共存を図るためには本種の採餌生態を明らかにする必要がある。本研究では、ラッコの採餌行動と海底環境の分布を比較することで、海底環境の面から採餌場選択の要因について検証を行った。
 北海道東部沿岸に、200 m間隔で全22個のグリッドを設定した。目視観察による採餌行動調査によってグリッド内の採餌潜水回数を算出し、各グリッドが採餌場として選択的に利用されているかどうかを判定した。また、コドラートを用いた海底環境調査によって各グリッド内の海底環境(物理環境:水深および底質タイプ、生物環境:底生生物組成およびエネルギー密度)を明らかにし、採餌場と非採餌場間で比較した。
 採餌行動調査より延べ29個体分の採餌潜水が合計293回観察され、22個のグリッドのうち4か所が採餌場、14か所が非採餌場と判定された。物理環境は採餌場と非採餌場間に明らかな違いが見られず、採餌場選択に寄与していると言えなかった。一方、生物環境からは非採餌場より採餌場の餌環境が悪いことが明らかになり、ラッコの採餌行動が生物環境に影響を及ぼしている可能性が示唆された。本研究海域のラッコは、採餌によって環境中の餌生物を枯渇させた後、採餌域を拡大している段階にあると予測されるため、今後も採餌場と海底環境の時系列変化を継続的にモニタリングしていく必要がある。


日本生態学会