| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-118  (Poster presentation)

アマゴとイワナの自然下交雑要因の検討
Study on the factors of natural hybridization between Red spotted masu trout and White spotted char

*田口瑛心(岐阜大学), 岸大弼(岐阜県水産研究所), 伊藤健吾(岐阜大学), 乃田啓吾(岐阜大学)
*Eishin TAGUCHI(Gifu Univ.), Daisuke KISHI(Gifu Pref. Res. Inst.), Kengo ITO(Gifu Univ.), Keigo NODA(Gifu Univ.)

【背景】アマゴ(またはヤマメ)とイワナという渓流魚の自然下での交雑は100年前から知られている。既往文献では放流や遡上阻害物が交雑を引き起こすものと予想されているが、実際には、放流が始まった年代や遡上阻害物が多数設置され始めた年代よりも前から雑種が発見されている。そのため、上記以外にも交雑を引き起こす要因があると予想される。既往文献は、雑種の発見を報告するにとどまるものが多く、2種の繁殖行動を含めて調査した事例はない。そこで本研究では、2種の繁殖行動の空間的・時間的な重複または隔離の実態について精査した。
【方法】交雑の組み合わせとその発生時期を特定するために2種の繁殖行動を観察した。岐阜県の木曽川水系馬瀬川とその支流において、9月末から11月末の間に3日に1回の頻度で目視による観察を行った。また、雑種の両親種の組み合わせの傾向を調べるために、電気ショッカーにより雑種を捕獲し、遺伝子解析した。雑種であるかの判定にはSINE(短鎖散在反復配列)を利用し、母系特定にはPCR-RFLP法(制限酵素断片長多型)を用いた。
【結果・考察】交雑の1/3はアマゴ雌とイワナ雄、2/3はイワナ雌とアマゴ雄の組み合わせであり、前者はアマゴより繁殖期の遅いイワナの繁殖期初期に、後者はアマゴの繁殖期末期に生じていた。一般的に雄の繁殖期間は雌より前後に長いため、繁殖可能な同種の雌が少ない状況下の雄が交雑を引き起こしていると考えられる。また、捕獲された雑種23個体のうち、母系がイワナであったのは21個体、アマゴであったのは2個体だった。イワナが母系である雑種の方が、生残率が高いことが先行研究により明らかであるため、この結果はイワナ雌とアマゴ雄の組み合わせの交雑の方が多いということを必ずしも支持しないが、観察の結果とは一致した。
【展望】今後は堰堤等の遡上阻害物が各種の繁殖場所の物理条件(水深や流速)に影響を与えるか検証する予定である。


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