| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-159  (Poster presentation)

ツバキの切除された葉から放出される匂いは健全な個体の防御を誘導するのか?
Do the odors released from damaged leaves of Camellia japonica induce defense in intact individuals?

*櫻井裕介(新潟大学), 石崎智美(新潟大学), 塩尻かおり(龍谷大学)
*Yusuke SAKURAI(Niigata Univ.), Satomi ISHIZAKI(Niigata Univ.), Kaori SHIOJIRI(Ryukoku Univ.)

食害に対する植物の防衛手段の1つに、食害後に植食者への抵抗性を高める誘導抵抗性がある。誘導抵抗性は被害個体だけでなく、その隣接個体で誘導されることもあり、植物間コミュニケーションと呼ばれる。植物間コミュニケーションでは、食害部位から放出される匂いが個体間の情報伝達を担う例が多く知られている。一方、これまでの研究は室内での検証が多く、生態系における植物間コミュニケーションの重要性や進化的要因を明らかにするためには野外での検証が不可欠である。そこで本研究では、新潟大学構内に生育するヤブツバキを用いて野外実験を行った。
まず、隣接する2個体のペアを90ペア選んだ。各ペアにつき、片方の個体に処理枝とそれに隣接する測定枝(同個体測定枝)を選び、もう片方の個体にも測定枝(別個体測定枝)を選んだ。各ペアの処理枝に無処理、切除処理(処理枝の葉を切除し、匂いを放出)、切除+袋掛け処理(処理枝の葉を切除したのち、ビニール袋で袋掛けし、匂いの拡散を阻害)のいずれかを行った。処理1か月後に3種類の枝それぞれで葉が被害を受けた枝の割合(被害率)を測定した。結果は、同個体測定枝と別個体測定枝では、切除処理によって被害率が減少した。被害の種類は食害と病気が多く、どちらも切除処理によって減少した。一方、切除+袋掛け処理では、どの枝でも無処理と比較して被害率に変化はなかった。
同個体測定枝では切除処理のみで被害が減少したため、個体内でも抵抗性の誘導には匂いによる情報伝達が必要であるといえる。また、別個体測定枝では切除処理のみで被害が減少したことから、ツバキは隣接個体と匂いを用いた植物間コミュニケーションを行なっていることが示された。
また、ツバキの葉を切除したときに放出される匂いの成分を捕集し、GC-MSによって分析したところ、他の植物で防御誘導物質として報告されているGLV(Green leaf volatiles) が検出された。


日本生態学会