| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-175  (Poster presentation)

ブナの葉フェノロジーにおける季節適応:気候の標高・地形間変異に対する局所適応
Local adaptation of leaf phenology in Fagus crenata to elevational and topographic variations in climate

*杉本咲(岩手大学大学院), 石田清(弘前大学)
*Saki SUGIMOTO(Iwate Univ.), Kiyoshi ISHIDA(Hirosaki Univ.)

 落葉樹の開葉時期に発生する晩霜は、新葉の凍害をもたらすことによって樹木の成長量や生存率に大きな影響を与える。特に開葉の早い樹種は強度の晩霜に遭いやすいため、晩霜頻度が高い場所に生育する樹木集団は、開葉を遅延させることによって晩霜を回避していると考えられている。山地についてみると、盆地では放射冷却によって生じた冷気が滞留するため晩霜が頻発する一方で、山腹斜面は盆地よりも晩霜が発生しにくいというように、地形によって晩霜頻度が異なるため、樹木集団はこのような春季の気候の地形間変異に対して局所適応していることが予想される。
 以上の視点から、演者らは開葉の早い落葉樹種であるブナ Fagus crenataを対象として、山地における季節適応の実態を解明するため、標高および地形に沿った開葉時期の変異とその遺伝的分化を調査した。このため、青森県八甲田連峰において標高や地形の異なる6調査地(山腹斜面:4地点、盆地:2地点;盆地は同標高の山腹斜面よりも晩霜の発生時期が遅い)を設置し、6年間にわたりブナ林冠木の開葉フェノロジーと気温の観測を行うとともに、植栽試験を行った。植栽試験では、6調査地のうち5地点に生育する観察木の一部から種子を採取して圃場に播種し、6年間にわたり開葉フェノロジーの観察を行った。現地での観測の結果、盆地と山腹斜面高標高域に生育する集団は山腹斜面低・中標高域に生育する集団に比べて開葉日が遅くなる傾向が認められた。一方、開葉積算温度については、盆地に生育する集団の方が山腹斜面に生育する集団よりも大きい傾向が認められた。また、植栽稚樹の開葉時期は産地間で有意に異なり、盆地および高標高域産の個体は低・中標高域産の個体よりも開葉日が遅く、開葉積算温度が大きかった。以上の結果より、調査地域におけるブナ集団の季節性は標高および地形に沿った春季の気候の変異に局所適応した結果を示していると考えられる。


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