| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-184  (Poster presentation)

葉の形態の生育段階間・樹種間比較と実生の形態が動態に及ぼす影響
Ontogenetic and inter-specific comparisons of leaf functional traits and the effect of seedling traits on dynamics

*弓桁侑季(名大・農), Legeer CE(Nagoya University), 渡邉彩音(名大・農), 中川弥智子(名大・生命農)
*Yuki YUMIGETA(Nagoya Univ.), Legeer CE(Nagoya University), Ayane WATANABE(Nagoya Univ.), Michiko NAKAGAWA(Nagoya University)

実生は林床のササ類やリター量、光環境などによる影響を受けやすく、死亡率が高い生育段階であるため、樹木が生存・更新するうえで重要なステージである。また、葉や茎、根の形質は植物の光合成能力や環境適応能力と関係があるため、環境要因に対する応答には実生の形質が関係していると考えられる。しかし、モミ・ツガ林において、実生の形質と動態との関連を調べた研究例はない。そこで本研究では、実生の形質が環境要因と実生動態との関係にどのような影響を与えるのかを明らかにするために、モミ・ツガ林に生育する主要な16樹種の実生(樹高30cm以下)を対象として調査を行った。調査は2017年にスズタケが一斉開花・枯死した、愛知県の段戸モミ・ツガ希少個体群保護林で行った。まず、対象種およびスズタケの実生(計128個体)を根ごとサンプリングした。その後、比葉面積、葉乾物含有量(LDMC)、葉の厚さ、葉の窒素含有量、比根長、茎乾物含有量、根乾物含有量、バイオマス比を測定・算出した。また、2021年5月~10月に44ヶ所の2×1 m実生枠で実生調査を行った。さらに、林床環境として、野鼠個体数、リター量、スズタケ枯死桿の最大稈長および稈密度、光環境、土壌中の炭素および窒素含有量の調査も実施した。実生の形質が環境要因と実生動態との関係に与える影響を評価するため、過去のデータも含めて、一般化線形混合モデル(GLMM)により実生の生死および密度に環境要因が及ぼす影響を解析した。GLMMの結果から、各環境要因により生存率または密度が高まる樹種と下がる樹種との間で各形質を比較した。2021年では、合計で30種3,917個体の実生が確認された。また、各形質は樹種間で有意に異なった。解析の結果、実生動態に影響を与える環境要因と関連した主な形質は、LDMCとバイオマス比であった。このように実生の形質は、地下部や地上部での環境に対する応答に関わることで、実生動態に影響を与えていることが示唆された。


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