| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-207  (Poster presentation)

雌雄異株植物コウライテンナンショウの性転換の年次変化と適応度の関係
Relationship between annual sex change patterns and fitness in a dioecious plant, Arisaema peninsulae.

*牧野海斗(北大・理学部), 芳崎優華(北大・院・環境科学), 高橋空(北大・院・環境科学), 大原雅(北大・院・環境科学)
*Kaito MAKINO(Hokkaido Univ. Science), Yuka YOSHIZAKI(Hokkaido Univ. Env. Science), Sora TAKAHASHI(Hokkaido Univ. Env. Science), Masashi OHARA(Hokkaido Univ. Env. Science)

コウライテンナンショウ(Arisaema peninsulae)はテンナンショウ属の雌雄異株多年生草本である。雌雄異株であるため雄株から雌株への花粉の移動が重要であり、その送粉は送粉者であるキノコバエやクロバネキノコバエを匂いで誘因し、花序を取り囲む仏炎苞という苞葉の中に落とすトラップを利用した送粉様式で実現される。また、コウライテンナンショウは性転換をする植物としても知られ、個体が鱗茎に蓄えた資源量に応じて無性、雄、雌の間を毎年のように可逆的に性転換する。ここで、性転換が個体の資源量によってそれぞれ生じることを考えると、ある個体の周辺環境(ここでは周辺個体密度、性別、個体間距離のこと)は年によって変化することが予想され、送粉昆虫の訪花頻度や移動距離などの変化を通じて、繁殖に影響を与える可能性がある。そこで、本研究では周辺環境の毎年の変化が雌の繁殖成功度に及ぼす影響を明らかにすることを目的に調査を行った。
調査では1)個体追跡による周辺環境の経年変化の観察、2)結果率と周辺環境の比較による種子生産への影響、3)父系解析により推定した交配個体間距離と周辺環境の比較による花粉移動距離への影響を確認した。その結果、周辺環境は経年変化していること、周辺の個体密度が高い雌では結果率が上昇すること、花粉は周辺環境によらず近い個体間でも遠い個体間でも受け渡されていることがわかった。これは、密度が高いパッチでは多くの個体が匂いを放ち、匂い全体の濃度の上昇により送粉者が誘引されやすくなることで繁殖効率が上昇、訪花昆虫はパッチ内を滞留することもパッチ間を点々と移動することもあるため、花粉移動距離はばらついたと考えられる。また、個体の周辺環境は経年変化し、周辺環境はコウライテンナンショウの雌の繁殖成功度に影響を与えることからコウライテンナンショウの雌の繁殖成功度は年変動している可能性が示唆された。


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