| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-234  (Poster presentation)

共通圃場におけるクリの樹形および生産力の遺伝的変異-広葉樹育種に向けて-
Genetic variation in crown shape and productivity in Castanea crenata planted in the common garden -implications for breeding of hardwood trees-

*瀬木晶帆(京大・農・森林生態), 岩泉正和(林木育種センター), 三浦真弘(林木育種センター), 山田浩雄(林木育種センター), 北山兼弘(京大・農・森林生態), 小野田雄介(京大・農・熱林)
*Akiho SEGI(Kyoto Univ. Forest ecology), Masakazu IWAIZUMI(Forest Tree Breeding Center), Masahiro MIURA(Forest Tree Breeding Center), Hiroo YAMADA(Forest Tree Breeding Center), Kanehiro KITAYAMA(Kyoto Univ. Forest ecology), Yusuke ONODA(Kyoto Univ. Tropical forest)

 人間にとって、通直な木の幹は用材としての価値が高く、自然界に存在する多様な樹形や材質の中から、有用なものを選抜して使ってきた。一般に、針葉樹は広葉樹より通直性(真っ直ぐさ)が高く、用材として利用されやすい。一方で、広葉樹は材強度には優れるが、通直性が低く、あまり利用されていない。本研究では、用材として優れた広葉樹の選抜の可能性を検討するため、広葉樹の中では比較的用材利用されているクリをモデルとして、樹形の遺伝的変異とその決定要因、そして生産力との関係について解析した。
 対象とするクリは、中国地方及び近畿地方から収集され、林木育種センター関西育種場の場内圃場に植栽されている16年生の8系統とした。それらについて、樹形(個体形状比=樹高/平均樹冠幅)と、樹形の決定要因である分枝角度及び主軸優勢度(主幹断面積/(主幹断面積+横枝断面積合計))を測定した。また、樹形が現存量や成長速度に与える影響を評価するため、幹直径や樹高、材密度からアロメトリー式を用いて現存量や成長速度を計算した。また、ドローン空撮画像から樹冠面積を評価した。さらに、対象8系統から接木苗を作り、成木と1年生苗の樹形の相関を検証した。
 クリの樹形は系統間で大きな差があった。個体形状比が高い系統は、分枝角度が急で、主軸優勢度が高い傾向があり、特に後者が重要であった。また、個体形状比が高い系統は、樹冠の占有面積が小さく、個体現存量や成長速度は低い傾向があった。一方で、樹冠面積あたりの成長速度は樹形に依存せず、個体形状比が高い系統であっても、適切な植栽密度により、林分あたりの生産力を高く維持できる可能性が示唆された。また、成木と接木苗の樹形には相関がみられ、接木苗から成木の樹形をある程度予測できると分かった。以上より、広葉樹の樹形には遺伝的変異があり、主軸優勢度などに注目し用材としての利用価値がある系統を選抜できると期待された。


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