| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-247  (Poster presentation)

多雪地広葉樹は展葉をどう調節しているか?~融雪に伴う地温上昇と道管形成の関係~
The trigger of bud burst in broad-leaved trees in heavy snow region : Increases in soil temperature and vessel formation following snowmelt

*庄司森, 吉村謙一(山形大学)
*Shin SHOJI, Kenichi YOSHIMURA(Yamagata Univ.)

多雪地の広葉樹は春先に気温上昇しても少雪地と比較して展葉が遅れる。多雪地樹木の展葉遅延を樹木内の生理活性と関連させ、その要因について明らかにした研究は少ない。展葉には水分供給が必要なため、春季残雪が通水開始を遅らせ、それが間接的に展葉を遅らせると仮説を立てた。そこで本研究では山形県日本海側の多雪地(最大積雪深303cm)と少雪地(最大積雪深130cm)の広葉樹林を調査地とし、散孔材ブナ・環孔材ミズナラの2樹種を用いて、多雪地で展葉が遅れるメカニズムを展葉時期の水利用という観点から明らかにすることを目的とした。2月末に調査を開始し冬芽のサンプリング、展葉観察、積雪深、土・幹・気温、土壌含水率の計測などの環境測定をした。切片観察による樹冠小枝と幹の道管形成開始時期と樹液流速測定により樹木の通水を調べた。その結果展葉日は少雪地ではブナが4/14、ミズナラが4/18となり、多雪地ではブナが4/28、ミズナラが5/7であり両地点で春先の気温差はなかったが少雪地と比較して多雪地で樹木の展葉が遅れた。多雪地では残雪により少雪地よりも融雪が1ヶ月以上遅延し地温上昇を遅らせた結果、展葉開始が制限された可能性が高い。ブナは両調査地で3月下旬頃ほぼ同時に冬芽の吸水が始まった。前年までの道管で通水できる散孔材ブナは展葉直後に幹での通水開始が確認され、小枝道管形成は葉面積成長の完了時、幹道管形成は葉面積成長完了後に開始されたため道管形成が展葉に影響しないことが分かった。一方前年までの大径道管が通水不能となる環孔材ミズナラは、両地点とも小枝・幹で道管を形成した後に通水したため根から枝先までの通水経路確立が展葉開始にとって重要であることが分かった。ミズナラは、両地点でブナと同時に冬芽の吸水成長を開始したが、多雪地では残雪により幹道管形成開始に時間を要した。このことが通水経路確立を遅らせ、その結果展葉開始の制限になることが分かった。


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