| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-255  (Poster presentation)

ダケカンバ産地試験を用いた樹木の温暖化に対する形態形質への影響評価と遺伝的関連
Evaluation of effects on tree morphological traits and genetic associations using a provenance study of Betula ermanii under global warming

*荒木響子(筑波大学), 相原隆貴(筑波大学), 後藤晋(東京大学), 飯尾淳弘(静岡大学), 津村義彦(筑波大学)
*Kyoko ARAKI(Tsukuba Univ.), Takaki AIHARA(Tsukuba Univ.), Susumu GOTO(Tokyo Univ.), Atsuhiro IIO(Shizuoka Univ.), Yoshihiko TSUMURA(Tsukuba Univ.)

 現在地球温暖化が進んでいるが、樹木の分布移動速度では気温上昇の速度に追従できないため、温暖化が樹木に与える影響を明らかにする必要がある。樹木の表現型は、本来保有する遺伝的変異、生育環境によって適応的に変化する環境変異、その交互作用で決定する。本研究では気温の上昇の影響を強く受ける高山帯・亜高山帯の代表的な樹木であるダケカンバを用いて産地試験を行い、形態形質の網羅的な測定により植栽後2年間の試験地間変異、産地間変異を評価した。具体的には、生長量(苗高、地上10cm直径)に加え、葉の形態(葉面積・乾燥葉重・SLA (比葉面積) )、葉フェノロジー(開葉日、落葉日)を測定した。試験地は、全国11産地由来の183個体(平均16個体/産地)が植栽されているほぼ同緯度だが標高の異なる2箇所の産地試験地(つくば試験地 (標高30m)・八ヶ岳試験地 (標高1350m))を対象とした。
 その結果、生長量はつくば試験地が八ヶ岳試験地を上回った。開葉日はつくば試験地で早く、両試験地ともに高緯度産地ほど早かった。落葉日は八ヶ岳試験地で早く、つくば試験地での生育期間の延長が見られた。葉面積・葉の乾燥重量・SLAはつくば試験地が八ヶ岳試験地を上回り、高緯度産地ほど大きかった。生長量・落葉日に有意な緯度傾度は見られなかった。以上より、全ての形態形質において試験地間変異の大きさが産地間変異を上回り、温暖化に対する柔軟な表現型可塑性が見られた。また、開葉フェノロジーや葉形態において緯度勾配に沿った産地間変異も確認されたことから、温暖化に対して集団間で異なる適応を示すことが示唆された。


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