| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-257  (Poster presentation)

衛星リモートセンシングの時系列データから霜害を判定する手法
The method for determining frost damage from time series data of satellite remote sensing.

*青野葉介(東北大学), 野田響(国立環境研究所), 彦坂幸毅(東北大学)
*Yosuke AONO(TOHOKU Univ.), Hibiki NODA(NIES), Kouki HIKOSAKA(TOHOKU Univ.)

霜害は、植物が展葉後に低温にさらされることによって発生し、森林に被害をもたらすイベントである。地球温暖化に伴い、植物の葉が開く展葉日と最後に霜が降りる日である終霜日はどちらも早くなると考えられる。展葉日よりも終霜日が早くなった場合には霜害は減少し、どちらも同程度早くなった場合には変化せず、展葉日が終霜日よりも早くなった場合には霜害は増加すると考えられ、どのシナリオをたどっているのかは研究により見解が異なる。また、地理的要因である緯度と標高が霜害頻度に与える影響についても温暖化の影響と同様に、高緯度、高標高ほど高頻度、緯度、標高の影響なし、低緯度、低標高ほど高頻度という3つの仮説が考えられる。
本研究では、人工衛星観測データから計算されたNDVI(正規化植生指数)の時系列データを用いた新しい手法により日本のブナ林の2000年から2020年の霜害頻度を解析した 。
その結果、年経過によって展葉日が遅くなり、終霜日が変化しなかったことから霜害頻度は減少した。予想に反して緯度による展葉日の変化がなく、高緯度ほど終霜日が遅かったことから高緯度ほど霜害頻度は高くなった。高標高ほど展葉日と終霜日はどちらも遅くなり、その晩期化の程度が釣り合っていたために標高による霜害頻度の変化はなかった。また、霜害頻度は展葉後の最低気温と負に相関し、8月前半のLAI(葉面積指数)とGPP(総一次生産量)に負に相関した。
本研究により、ブナでは温暖化に伴い霜害が減少しつつあること、また、霜害による炭素固定阻害の頻度も減っていることが示唆される。一方、展葉日は年経過に伴い遅くなり、緯度による変化がないという、予想に反する結果が得られたことは、ブナの展葉制御の生理学的メカニズムについて新たな問いを提示している。


日本生態学会