| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-289  (Poster presentation)

なぜクロマツの実生が口永良部島噴火直後に優占したのか?
Why did Pinus thunbergii seedlings occur dominantly soon after the eruption in Kuchinoerabu-jima Island, southwest Japan ?

*山田耕平(近大・院・農), 川西基博(鹿児島大学), 石川陽(東京大学), 澤畠拓夫(近大・院・農), 早坂大亮(近大・院・農)
*Kouhei YAMADA(Kindai Univ.), Motohiro KAWANISHI(Kagoshima Univ.), Akira ISHIKAWA(Tokyo Univ.), Takuo SAWAHATA(Kindai Univ.), daisuke HAYASAKA(Kindai Univ.)

2015年の鹿児島県口永良部島における噴火に伴って生じた火砕泥流跡地では,その4年後の2019年の調査において,クロマツPinus thunbergii Parlの実生の生育が広範囲に確認された.クロマツは,外生菌根菌と「外生菌根」を形成することで,乾燥などの環境ストレスにも適応していることが知られている.本種は噴火から数十年程度が経過したのちに侵入する傾向にある陽性の針葉樹である.この現象は,既存の一次遷移にみられる植生遷移とは異なっている.そこでクロマツが他の植物種に優先して火山砕屑物上に侵入・定着できたメカニズムの解明に向け、攪乱跡地に侵入した菌根菌の種組成の調査と菌根菌を接種したクロマツ実生の火山砕屑物上での生育試験を行った.その結果,火山砕屑物上の外生菌根菌は,クロマツに特異的な菌種が多く,かつ菌糸を長く伸長する「長距離型菌種」で構成されていた.さらに,外生菌根菌の感染によって6割のクロマツ個体が試験期間を通じて生残し,かつこれらの個体はすべて,菌根の形成が確認された.他方で,外生菌根菌を接種しなかった個体は90日以内に枯死し,菌根の形成もなかった.以上より,クロマツは菌根菌に感染した場合,乾燥・貧栄養下にある火山砕屑物上でも生存可能となったことが示された.これはクロマツが他の先駆植物に先立って火山砕屑物上で優占できた要因のひとつかもしれない.


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