| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-296  (Poster presentation)

下層植生消滅下での大気窒素沈着に対する樹木の蒸散の応答
Response of Transpiration to Elevated N Deposition and Damaged Understory Vegetation

*長野菜穂, 智和正明, 久米朋宣, 内海泰弘, 田代直明, 大槻恭一(九州大学)
*Nao NAGANO, Masaaki CHIWA, Tomonori KUME, Yasuhiro UTSUMI, Naoaki TASHIRO, Kyoichi OTSUKI(Kyushu Univ.)

大気窒素沈着量の増加は森林生態系に様々な影響を与えるが,樹木の蒸散の応答に関する報告は少ない。本研究では,窒素負荷増加に対するミズナラの蒸散の応答を明らかにすることを目的とした。また,大きな窒素吸収能をもつ下層植生が影響を与える可能性があるため,下層のミヤコザサの有無による違いも検討した。本研究では,九州大学北海道演習林の29年生ミズナラ林分において窒素施肥・下層除去処理を行った。各処理を組み合わせたプロット4つを設置した。各プロットは,窒素施肥なし・下層除去なし (C), 窒素施肥なし・下層除去あり (CRem),窒素施肥あり・下層除去あり (NRem),窒素施肥あり・下層除去なし (N) である。各プロット8本の樹木に対して3年間樹液流計測を行った。また蒸散を変化させる要因を検討するため,葉の生産量,個葉の蒸散に準ずる指標として樹冠上部の葉の炭素安定同位体比の計測を行った。さらに樹木の窒素吸収量を,葉の生産量と落葉の窒素濃度を用いて算出した。ササの窒素吸収量をササ地上部バイオマス量とそれらの窒素濃度を用いて算出した。樹液流速には窒素施肥・下層除去による有意差は見られなかった。樹冠上部の葉の炭素安定同位体比においても窒素施肥・下層除去による有意差は見られなかった。一方,葉の生産量は窒素施肥により増加した。樹木の蒸散には窒素施肥と下層除去の影響が見られなかった一方で,ササの窒素吸収量はC・Nプロット全体の窒素吸収量の約3-4割を占めており,窒素循環において影響力が大きいことが示唆された。樹木の窒素吸収量は窒素施肥と下層除去の両方を行ったNRemにおいて最も大きかった。これらの結果から,本調査地における窒素負荷に対する感受性が,蒸散を含む水循環系の方が窒素循環系よりも小さい可能性が示唆された。


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