| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-297  (Poster presentation)

雪害を受けたスギ林における樹冠蒸散量の推定 【B】
Estimation of canopy transpiration in a Japanese cedar forest damaged by snow 【B】

*砥綿夕里花(岐阜大・院・自然研), 斎藤琢(岐阜大・流域研), 平野優(信州大・農学部), 安江恒(信州大・山岳研)
*Yurika TOWATA(Graduate School, Gifu Univ.), Taku M. SAITOH(RBRC, Gifu Univ.), Yu HIRANO(Fac Agric, Shinshu Univ.), Koh YASUE(IMS, Shinshu Univ.)

日本の主要な樹種であるスギにおける林分樹冠蒸散量の推定は、水源涵養機能の観点から様々な地域で実施されているが、雪害を受けたスギ林における蒸散量については不明な点が多い。当該林分では、健全な個体と樹冠部にダメージを受けた個体が混在し、樹冠状態が不均一になることが多く、樹冠状態による蒸散量の相違性を考慮して、林分樹冠蒸散量を推定することが重要となる。そこで本研究では、健全木(H)と雪害によって樹冠を一部欠損した樹冠一部残存木(BSc)に樹液流計測法を適用し、樹冠状態の相違性が個体蒸散量に及ぼす影響を明らかにした上で林分樹冠蒸散量を推定し、雪害がスギ林の樹冠蒸散量に及ぼす影響について評価する。調査は岐阜大学流域圏科学研究センター高山試験地の常緑針葉樹林サイトで行った。当該サイトは2014年12月に雪害を受けており、林内にはHとBScが混在する。HおよびBScの各3個体で、グラニエ法によって樹液流速を測定した。また、コアサンプリングによりH10個体、BSc7個体で辺材面積を推定し、樹冠状態ごとに胸高直径と辺材面積の関係を得た。林分平均樹液流速に林分総辺材面積を乗じることで、林分樹冠蒸散量を推定した。胸高直径と辺材面積の関係はHとBScで異なり、また、BScでは一部の個体において辺材部の不規則な心材化が確認された。個体蒸散量はHと比較してBScで約15%小さかった。そのため、BScで個体蒸散量が小さくなった要因は、雪害による樹冠の欠損だけでなく、辺材部にもあると考えられる。このようなHおよびBScの蒸散量や胸高直径と辺材面積の関係の相違性を考慮して、スギ林分の樹冠蒸散量を推定したところ、年樹冠蒸散量は216 mm year-1であった。この値は調査地における年降水量の約13%を占めており、既存研究における健全なスギ林の樹冠蒸散量が降水量に占める割合(14~23%)と比較して小さかった。従って、雪害による攪乱は林分樹冠蒸散量を減少させることが示唆された。


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