| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-322  (Poster presentation)

日本産被食散布型植物の分類群間における果実の色の多様性の比較
A comparison of the diversity of fruit color among taxa of animal-dispersed plants in Japan

*松浦真央, 名波哲, 山岡里帆, 上羽亮太朗, 伊東明(大阪市立大学)
*Mana MATSUURA, Satoshi NANAMI, Riho YAMAOKA, Ryotaro UEBA, Akira ITOH(Osaka City University)

 動物被食散布型の植物にとっては、散布者の行動や感覚能力に適応的な形質の果実をつけることが、個体の繁殖成功や集団の維持につながる。果実の色は、散布者に果実の存在を知らせるための重要な形質の一つであると考えられている。本研究では、日本各地から採集した281種の被食散布型植物を対象とし、果実の色の多様性の評価、果実の色の進化の方向性の推定、系統や生活形との関連性の探索を行った。
 果実の色の評価において、主たる種子散布者である鳥類の四色型色覚を反映させるために、紫外線を含む300~700 nmの範囲の反射スペクトルを測定した。各種の反射スペクトルの特性値を系統分類群ごとに鳥類の色覚に基づいた正四面体色空間にプロットし、この時に描かれる凸包の体積を多様性の指標とした。その結果、キンポウゲ目などでは多様性は低く、クサスギカズラ目などでは高かった。同様の評価を生活形ごとに行った結果、果実の色の多様性は高木で特に低く、つる植物では高かった。系統や生活形によって果実の色の多様性が異なることが示された。
 測定した反射スペクトルに主成分分析を適用した結果、赤色または黒色の指標と解釈できるPC1、緑色の指標となるPC2、紫外線反射の指標となるPC3にまとめられた。これらの主成分スコアに基づき、果実の色の進化方向を推定した結果、基本的には黒色に向かって進化していたものの、紫外線を反射する黒への進化が高木やつる性木本の果実で多いことが示された。高木やつる性木本では鳥類が主に種子散布を行うために、紫外線を反射する黒色の果実が適応的であった可能性がある。一方、赤色への進化は様々な生活形でみられた。赤色は、哺乳類を含む様々な種子散布者にとって、果実を探す際に用いるシグナルなのかもしれない。果実の色の多様性の創出と維持には、散布者の色覚や嗜好性が選択圧の一つとして働いている可能性がある。


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