| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-332  (Poster presentation)

植生調査資料を活用した東京都府中市における植物レッドリストの作成
An attempt to devise a list of threatened plant species utilizing vegetation survey data.

*大草三起(東京農工大学農学部), 吉川正人(東京農工大学大学院)
*Mitsuoki OKUSA(Tokyo Univ. of Agri. and Tech.), Masato YOSHIKAWA(Tokyo Univ. of Agri and Tech)

 絶滅のおそれがある生物種を列挙したレッドリストの作成は,地域の生物多様性の現状を把握する手段のひとつである. これまでに国や都道府県レベルでレッドリストの作成が行われてきたが,生物種の希少性は地理的スケールの取り方によって異なるため,地域の実情に即した保全対策の立案のためには,市町村スケールの絶滅リスク評価が求められる. 本研究では東京都府中市を対象として,既存の調査記録を活用することによって市内に分布する植物種の希少性を判定し,地域版レッドリスト作成の基礎資料とすることを目的とした.
 2000年以降に市内で行われた植生および植物相の調査資料,市内で採取された標本を収集し,これらに記録された在来の維管束植物521種を評価対象とした. 希少性の判定には,種の分布域,生育地の特異性,局所個体群サイズの大小によって,希少性を8つのカテゴリーに類型化するRabinowitz(1981)の手法を用いた. ここでは,植物種が出現した町丁目数を分布域,出現した群落タイプ数を生育地の特異性,出現地点における平均被度を局所個体群サイズの指標値とした. 各指標値を二分する閾値を種数の下位10%と下位25%に設定して,それぞれの閾値における希少種数を算出した.
 評価対象種に占める希少種割合は,閾値が種数の下位10%のとき34.5%,25%のとき46.4%となった. カテゴリー別の種数を比較すると,どちらの閾値においても最も希少性が高いカテゴリーの種数が最大となった. そのうち約82%の種は国や東京都のレッドリストに掲載されていなかった. このことから,府中市に生育する在来種には,町丁目単位でみた分布域や群落レベルでみたハビタットが限られた種が多いこと,市のスケールの希少性は都道府県以上のスケールでみた場合とは大きく異なることが明らかになった.


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