| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-352  (Poster presentation)

カワニナ類における殻形態や吸着力、遡上能力にみられる流水適応
Morphological and behavioral adaptation to flowing water in the freshwater snail Semisulcospira spp.

*大類詩織(千葉大・院・融), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Shiori OHRUI(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

生物集団は進化を通じて、生息する環境に適応する。環境が空間的に連続して変化する場合、その環境勾配に沿って表現型が連続的に変化することになる。このとき、緯度勾配のように環境の勾配が空間的に緩やかに生じるならば、個体が移動・分散によって著しく異なった環境に移動することはないが、標高勾配のように急峻な場合には、短距離の分散でも個体が大きく異なった環境に移動してしまい、適応度を低下させるリスクが大きくなるはずだ。したがって、急峻な環境勾配に沿って生息する生物では、移動を抑制するための表現型が進化する可能性がある。河川は、標高に沿って急峻な環境勾配が存在すると同時に、水流によって上流から下流へ個体の移動が起こりやすいシステムである。そのため、河川に生息する生物は、水流の影響を受けにくい形態や水流に対抗して上流方向に移動する能力などが進化しているかもしれない。そこで本研究では、陸水の幅広い環境に生息するカワニナ類を用いて、殻形態や吸着力、移動能力に見られる流水適応の有無を検証することを目的とした。まず、カワニナ類の殻形態の比較を行なうため、写真データをもとに、螺塔の縫合に6点の相同な点をとり、ランドマーク法にもとづく形態幾何学的解析を行なった。その結果、止水や緩流に生息する種ほど細長い殻形態になっていることがわかった。また、急峻である河川内において、勾配が急な地点の集団ほど殻形態が丸い傾向が見られた。次に、脚の接地面積を求めたところ、標高が高い地点に生息する個体ほど殻の大きさに対して接地面積が大きくなった。最後に、実験室環境で産出した川内川由来の稚貝を用いて、個体の移動速度を測定したところ、流れの速い地点に由来する個体ほど移動速度が速い傾向がみられた。これらの結果は、カワニナ類において、殻形態と移動能力に関して流水適応が存在していることを示唆している。


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