| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-377  (Poster presentation)

ツヤヒラタゴミムシ属における系統進化・形質進化
Phylogeny and morphological evolution of the genus Synuchus (Coleoptera: Carabidae) in Japan

*清水隆史, 久保田耕平(東京大学)
*Takashi SHIMIZU, Kohei KUBOTA(The University of Tokyo)

一般に昆虫における飛翔能力の退化は,飛翔頻度の減少→飛翔筋の退化→翅の退化の順に生じ,安定な環境や個体群の分断といった要因で飛翔能力の退化が進行する。飛翔筋の退化による飛翔能力の喪失は,種分化を促進するとされているが,翅の退化の属内変異と進化や種分化との関連について検討した事例は少ない。
オサムシ科の甲虫であるツヤヒラタゴミムシ属Synuchusは,日本各地の森林林床における普通種・優占種である場合が多く,種間における外部形態の差異に乏しいことから,属全体の種多様性や形態学的・進化学的研究が進んでいない。本研究では,北海道から九州までの87地点で採集されたツヤヒラタゴミムシ属の系統進化から飛翔形質及びに関連ニッチの進化過程を明らかにすることを目的に,形態解析と遺伝子解析を行った。
形態解析の結果,扱った全ての種・個体が飛翔筋を持たないことから,本属は基本的に飛翔能力を持たないと考えられること,後翅翅型が長翅型と短翅型の二型に分かれることから,本属は翅の退化の過程段階にあると考えられること,標高ニッチと翅型の頻度が一致することが分かった。さらに,本属の長翅の発達レベルは翅脈及びに翅の色から3段階に分けられ,無翅型の頻度が高い種において少数出現する長翅型個体が,長翅型の頻度が高い種における長翅型個体と比べても発達した後翅をもつことや,無翅型の頻度が高い種における長翅型個体は,無翅型個体よりも大型化する傾向があることが明らかになった。
ミトコンドリア遺伝子及びに核遺伝子を用いた系統解析の結果,本属は形態的種間における遺伝的分化が明瞭であり,一部の種では地理的分化が認められ,系統進化の過程で翅型が平行進化した可能性が示唆された。また,標高ニッチの祖先復元の結果から,本属の共通祖先種は山地性であり,山地性から平地性への平行進化が起こった可能性が高いと考えられた。


日本生態学会