| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-379  (Poster presentation)

雄交尾器の巨大化に伴うボディーパーツ間の相関構造の変化
Change in correlation between body parts in response to the evolution of huge male genitalia

*寺田夏蓮, 高橋颯吾, 高見泰興(神戸大学)
*Karen TERADA, Sougo TAKAHASHI, Yasuoki TAKAMI(Kobe Univ.)

雌にアピールするための装飾的形質や,雄間闘争に用いられる武器形質は,性選択の結果もたらされた誇張形質の典型的な例である.誇張形質の進化には,誇張に対する様々な制約を突破することが必要であると予測される.このような制約の一つは遺伝的制約であり,多面発現のような他の形質との遺伝的な連関から独立する必要があると考えられる.もう一つは構造的制約であり,周辺構造との構造的,空間的調整が必要であると考えられる.しかし,誇張形質の進化に関わるこれらの制約を,ボディーパーツ全体を通して網羅的に調べた研究例は少ない.
 本研究は,雌雄の交尾器形態が種特異的に多様化しているオオオサムシ亜属に属し,極端に大きな交尾器をもつドウキョウオサムシと,その近縁種で通常サイズの交尾器を持つマヤサンオサムシとイワワキオサムシを対象に,交尾器形態の誇張化の背景にある制約について,体の各部位のサイズを元に検討した.制約は,誇張形質と他の部位のサイズ間に強い共変動をもたらすと期待される.
 腹部と陰茎のサイズはイワワキオサムシで最も強く共変動し,次いでマヤサン,ドウキョウオサムシの順に弱まった.最も祖先的な種であるイワワキオサムシの陰茎が,腹部内の空間に比べて十分に小さいにも関わらず腹部と共変動する事は,両者間に遺伝的な連関がある事を示唆する。一方,ドウキョウオサムシの陰茎は,このような遺伝的制約から独立している可能性がある.また,陰茎と交尾片のサイズはドウキョウオサムシで最も強く共変動し,次いでイワワキ,マヤサンオサムシの順に弱まった.ドウキョウオサムシでは巨大な交尾片が陰茎内の多くの空間を占めており,陰茎サイズが交尾片の誇張化を空間的に制限している可能性がある.以上より,ドウキョウオサムシの交尾器は,遺伝的制約からの解放により誇張化が可能になったものの,交尾片は構造的制約による物理的限界に到達している可能性がある.


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