| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-384  (Poster presentation)

複数の宿主を持つ病原体の空間構造を考慮した毒性の進化シミュレーション
Evolutionary simulation of pathogen virulence considering the spatial structure of multiple hosts

*山村大樹, 谷内茂雄, 曽田貞滋(京都大学)
*Taiki YAMAMURA, Shigeo YACHI, Teiji SOTA(Kyoto Univ.)

 病原体が迅速に進化してホストの環境に適応していくことは、昨今のコロナウイルス変異株に関する情報からも周知の事実となりつつある。しかし、新興感染症 の原因となる病原体の多くが、本来の生息地においては複数種のホストに感染することは案外知られていない。これまで病原体の進化の研究は主に1種ホスト系で行われてきたが、生態系における病原体の振る舞いや種多様性との関わりを考える上では、より現実に近い多種ホスト系での進化を論じることが必要となる。今回、我々 は病原体の毒性に着目し、3種ホスト系における正方格子SIRモデルを用いて毒性進化の数値シミュレーションを行った。
 解析の結果、3種ホスト系においては最も体サイズの小さい種(最小種)の毒性進化の方向が、他の2種の毒性進化の軌道を引き込む様子(以下「アトラクト(attract)」と呼称)が見られた。アトラクトに影響を与える主要因は種間感染の程度の強さを表す種間感染係数であるが、種間感染係数が低い場合には集団の大域的な相互作用の割合 もアトラクトに関係することが示された。また、アトラクトが生じる原因として、ホストの個体数が体サイズに反比例する点から、より多くの個体を感染させるための病原体の適応進化として最小種への適応が起こっていることが考えられる。シミュレーションから考えられる毒性進化のシナリオは、1)まずホスト3種の中で最も感染個体が多い最小種に適応した毒性が進化し、2)次いで種間感染で他の種にその毒性の病原体が伝播することでアトラクトが起こっているのであろう。
 今回のシミュレーションは限定的な仮定の下で行ったものではあるが、多種ホスト系の病原体の毒性進化における体サイズ最小種の重要性の一端を示したものと考えられる。


日本生態学会