| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-394  (Poster presentation)

マンリョウはどうやって侵略的外来種になったか?集団遺伝学的解析からの新たな仮説
How did Ardisia crenata become invasive exotic? A novel hypothesis from population genetic analyses.

*野依航(京都大学), 井鷺裕司(京都大学), 田金秀一郎(鹿児島大学), 中村直人(京都大学), 北島薫(京都大学)
*Wataru NOYORI(Kyoto Univ), Yuji ISAGI(Kyoto Univ), Shuichiro TAGANE(Kagoshima Univ), Naoto NAKAMURA(Kyoto Univ), Kaoru KITAJIMA(Kyoto Univ)

 マンリョウ(Ardisia crenata)は日本からインドに産するサクラソウ科の常緑小低木であり、日本では園芸植物としても広く栽培される。しかし、米国などに持ち込まれた栽培由来の個体が自生化して、森林の林床などで侵略的外来種として振舞っている。本研究では侵略性にも影響する集団遺伝学的な背景を解明するため、米国フロリダ州の侵略集団と日本の自生集団について、集団遺伝学的解析を行った。また、侵略集団と在来集団の系統関係と集団構造、個体間の遺伝的距離に注目し、解析を行った。手法としては、日本と米国の複数集団から採取した葉をシリカゲルで乾燥保存したのち、CTAB法によってDNA抽出を行い、RAD-seq法によるゲノムの縮約解読を行った。以降の解析は、以下のソフトウェアを用いた。まず、Stacksを用いて遺伝子座ごとに配列を比較し、Structureを用いて集団遺伝構造を、RAxMLを用いて最尤系統樹を、PAUPを用いて個体間の遺伝的距離をそれぞれ求めた。これらの解析の結果、マンリョウの集団遺伝構造と最尤系統樹の結果は一貫しており、米国侵略集団、本州集団、南日本集団に分割された。また、米国侵略集団と本州集団が近縁であり、南日本集団とはいずれも遠縁であることが示された。個体間の遺伝的距離は米国侵略集団内と日本の本州集団内では0であり、各々集団内で遺伝的に均質なクローンで構成されていることが判明した。一方で南日本集団内では、個体間にある程度の遺伝的分化が見られた。これらの結果は米国侵略集団と日本本州集団は近縁な別個の2クローンで構成されることを示すが、マンリョウでは根茎等による栄養繁殖を行なわず、実生から野生更新することを考えると、無融合生殖を行っている可能性が極めて高い。無融合生殖は送粉者を必要とせず、近交弱勢も生じにくいため、侵略する過程で有利に作用した可能性が新たな仮説として浮上した。他のアジア地域の集団や米国以外での侵略個体なども対象として、さらなる検証が必要である。


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