| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-438  (Poster presentation)

化学肥料がサンゴ礁に及ぼす影響に関する硫黄・窒素安定同位体研究
Sulfur and nitrogen stable isotope study on the effects of chemical fertilizer application to coral reefs

*玉本めぐみ, 中西康博(東京農業大学)
*Megumi TAMAMOTO, Yasuhiro NAKANISHI(Tokyo Univ. of Agriculture)

サンゴ礁衰退原因の一つは海洋の富栄養化であり、例えば鹿児島県与論島では主作物のサトウキビに施用される硫安(NH₄)₂SO₄が影響している可能性がある。その影響は、サンゴ骨格中のδ¹⁵Nにより評価されてきたものの、海水と化学肥料で同値に大差がないことから、化学肥料の影響を評価するのにδ¹⁵Nは不向きである。一方、δ³⁴Sは海水が+21‰、化学肥料が0‰前後であることから、δ³⁴Sを利用することで化学肥料の影響をより正確に評価することができる。サンゴ骨格には年輪が発達することから、それに沿ってδ³⁴Sを測定することで化学肥料の影響を経年的に追跡することができる。また、礁池内は礁池外からの海水交換が少ないため栄養塩が残留しやすく、与論島ではリーフの発達している主に東側の海岸で栄養塩の濃度が高くなっている。そこで本研究は、長期間にわたる年輪を持つサンゴ骨格や海域別に採取されたサンゴ骨格のδ³⁴Sを測定すること、およびサンゴ骨格のδ³⁴Sを利用した硫黄の給源を推定することを目的とした。
 サンゴ骨格試料は与論島近海から採取されたものを5点用いた。そのうち北西部および北部のサンゴ骨格でδ³⁴Sが上昇、東部礁池内のサンゴ骨格でδ³⁴Sが下降した。サンゴ骨格δ³⁴Sが上昇したことから、サンゴ礁海域で硫酸還元が起きている可能性が示唆された。硫酸塩還元菌は硫化水素を生成する際に軽い同位体を利用するため、同位体分別が起こる。サンゴ礁海域への有機物流入量が増えて硫酸塩還元菌が増加した結果サンゴ骨格δ³⁴Sが上昇したと考えられた。また、サンゴ骨格δ³⁴Sと海水温には弱い正の相関があり、海水温の上昇に伴って硫酸塩還元菌の活性が高まったことにも起因すると考えられた。さらに、サンゴ骨格の年輪に見られる黒色バンドは硫酸還元下で発生した硫化鉄がサンゴ骨格に沈殿したものであり、本研究の試料で黒色バンドが確認できたことは、与論島のサンゴ礁海域で硫酸還元が起きている可能性を支持した。


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