| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-464  (Poster presentation)

耕作放棄に伴う佐渡のトキの営巣適地の変化: LANDIS-IIを用いた将来シナリオ分析
Impact of Farmland Abandonment on Nesting Suitability of Crested Ibis in Sado city: Future Scenario Analysis using LANDIS-II

*田中愛子(大阪大学), 芳賀智宏(大阪大学), 堀啓子(東京大学), 松井孝典(大阪大学), 柴田嶺(新潟大学), 関島恒夫(新潟大学)
*Aiko TANAKA(Osaka Univ.), Chihiro HAGA(Osaka Univ.), Keiko HORI(Univ. of Tokyo), Takanori MATSUI(Osaka Univ.), Rei SHIBATA(Niigata Univ.), Tuneo SEKIJIMA(Niigata Univ.)

日本では急速に人口減少と少子高齢化が進行し,特に農村部では森林や農地の管理不足が問題となっている.生態系のアンダーユースの問題は,生物多様性国家戦略で生物多様性の第2の危機と位置付けられ,里山を生息域とする生物種に影響を与えることが懸念されている.そこで本研究では新潟県佐渡市を対象に,将来の人口減少と高齢化に伴う耕作放棄地の拡大が,トキの営巣環境に与える影響を空間明示的に評価することを目的とした.2050年までの人口分布の情報には,1 kmメッシュ別将来人口の推計結果を用いた.農地の区画GISデータである筆ポリゴンに,最寄りの人口メッシュから将来人口・80歳以上の人口割合・平均年齢を空間結合し,農地区画別の人口動態データベースを作成した.このデータベースから,平均年齢や80歳以上人口の割合から,4つの耕作放棄地の拡大シナリオを設計した.シナリオ別のトキの営巣適地の空間分布の変化は,Mochizuki et al. (2015) のモデルで評価した.結果からは,佐渡市の総人口が2050年にかけて55 %減少し,80歳以上人口の割合も21.1%から28.6%に増加するのに伴い,耕作放棄地は最大で37.7 km2増加することが示された.特に大佐渡の沿岸部では高齢化,小佐渡の中央部では無居住化により耕作放棄地が増加する可能性が示された.トキの営巣適性指標の佐渡市の空間平均は2050年にかけて全シナリオで減少し,特に耕作放棄地の拡大が大きいシナリオで大きく減少した.生物多様性佐渡戦略の棚田環境継承ゾーンでは,近年このゾーンでは近年トキの分布が拡大しつつあるが,全てのシナリオで無居住化に伴う耕作放棄が営巣適性指数を低下させることが示唆された.また,全球・国スケールでの気候・社会システムの変化が地域内の動物相や植物相に与える影響の評価に向けて,森林景観モデルのLANDIS-IIモデルを用いた植生遷移のシミュレーションの課題を議論した.


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