| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-470  (Poster presentation)

認証要件を活用したトキの順応的な生息地管理
Adaptive management of crested ibis habitat using a certification system for paddy rice cultivation

*星野黎衣(新潟大学), 小町亮介(株式会社サンワコン), 鎌田泰斗(新潟大学), 関島恒夫(新潟大学)
*Rei HOSHINO(Niigata Univ.), Ryosuke KOMATI(Sanwakon Co., Ltd.), Taito KAMATA(Niigata Univ.), Tuneo SEKIZIMA(Niigata Univ.)

新潟県佐渡市では、1981年に野生絶滅したトキの野生定着に向けた自然再生が進められている。市は、トキの餌場創出に有効とされる江や水田魚道、冬水たんぼなど生きものを育む農法を普及すべく、それらを水稲栽培の要件とした「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度をトキの放鳥に合わせ2008年に制定した。認証制度の導入効果は大きく、それまで容易に進まなかった環境保全型農業が、本制度の導入以降、一気に普及した。その際、重要視されたのは、認証水田に対するトキの応答を定期的に検証した上で、効果のない取り組みは制度から外し効果のある取り組みを残す、あるいは有効と思われる農法を新たに追加するといった、順応的にトキの最適な生息環境を管理する体制を整備することであった。本研究では、トキの順応的な餌場環境づくりを目指し、放鳥直後の2010年から5年ごとの2015年、2020年の計3回にわたり、認証要件の実施を主な対象としてトキの餌場利用特性を明らかにすることを目的とした。解析の手順として、応答変数としてトキの在・不在情報(1-0)を、説明変数として認証要件の実施の有無などを局所要因に、住宅地や林分面積、ねぐらまでの距離といった景観要因を200m‐1000mまでの5段階のバッファごとに抽出し、一般化線形モデルを適用することで、放鳥後の経過年に沿ったトキの餌場環境選択性を検証した。結果として、放鳥直後の2010年には見られなかった江に対する選択性が、2015年になると有意に選好され、2020年にはその効果が消失していた。冬水たんぼについては、2015年に有意に忌避していたが、2020年になるとその効果は消失していた。水田魚道が設置された水田に対して、2010年には有意に選好されていたにも拘わらず、2015年になるとその効果は検出されなくなり、2020年には再び有意に選好されるようになった。本講演では、各認証要件の実施内容やトキの定着状況を踏まえ、各要件の効果の変遷を検証した上で、今後に向けた改善策の提案を行う。


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