| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-039  (Poster presentation)

初めて確認されたツキノワグマによる洋ラン被害
An initial record of orchid damage by Asian black bear

*瀧井暁子(信州大学), 中下留美子(森林総合研究所)
*Akiko TAKII(Shinshu University), Rumiko NAKASHITA(FFPRI)

クマ類の誘引物には農作物、養蜂箱、家畜飼料などがあるが、これまで洋ランを食害した事例は報告されていない。本発表では、2021年8月下旬に長野県上伊那地域で発生したツキノワグマによる、ビニールハウス栽培のシンビジウム被害の実態とその要因について検討する。被害実態調査、被食部位の栄養分析、被害現場近くで採取したツキノワグマの糞内容物の確認および体毛による炭素・窒素安定同位体比分析を行った。ツキノワグマは一晩で200〜300鉢のシンビジウムに被害を出し、その後もビニールハウス近くに出没した。主な被食部位は葉の根元にあるバルブであり、栄養分析からは糖含有率が比較的高いことが示された。被害現場近くで採取した2個の糞内容物は、オニグルミ、鳥類の羽、魚類のエラなどだった。また、体毛を用いた安定同位体比による食性解析から、体毛を採取した2個体はいずれも高い炭素・窒素安定同位体比を示した。被害現場に隣接する養魚場では、ツキノワグマが度々出没して餌付いた状態だったと考えられた。したがって、被害は養魚場に接近した個体が隣接する洋ランのビニールハウスに偶然侵入し、糖含有率の高いシンビジウムのバルブを食べ物として認識した結果おきたと考えられた。人為由来の食物に餌付いた状態を放置することで、これまで考えられなかったようなクマ類による被害が起きる可能性をこの事例は示唆していた。


日本生態学会