| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-109  (Poster presentation)

都市における植物の被食防衛形質の空間変異:適応か、中立か
Spatial variation in defense trait of white clovers in urban : adaptive or neutral ?

*石黒智基(北海道大院環境科学院), Marc T. J. JOHNSON(Univ. of Toronto), 内海俊介(北海道大学 FSC)
*Tomoki ISHIGURO(Environ Sci, Hokkaido Univ.), Marc T. J. JOHNSON(Univ. of Toronto), Shunsuke UTSUMI(FSC, Hokkaido Univ.)

都市化にともなう劇的な環境変化が生物多様性や生態系の特性に強い影響を与えることがこれまで報告されてきたが、近年、都市化が生物の進化に及ぼす影響について新たに注目が集まっている。しかし、都市環境の進化的影響の実態については、まだ多くのことが明らかでない。これは、多くの環境要素が都市勾配に沿って変化する一方で、その変動様式は非線形的・不連続的であるのに加え、二分的な比較(都市vs郊外)やトランセクト調査による研究アプローチが主流だからである。また、形質には多機能性があるため、都市から郊外のさまざまな環境勾配の非線形性と相まって、都市化と形質進化の関係は複雑なものであると考えられる。そこで我々は、さまざまな環境要素および形質の多機能性と空間変異について、都市から郊外にかけての地域一帯における空間分布を包括的に解析することが必要であると考えた。

本研究の目的は、シロツメクサの遺伝的な被食防衛形質であるシアン産生能とその構成因子 (シアン配糖体生成・非生成、加水分解酵素の生成・非生成)に着目し、都市化による環境変異が形質進化に及ぼす影響を明らかにすることである。

都市中心から郊外農耕地帯を含む札幌市近郊(札幌駅付近を含む約300㎢)の122地点で、それぞれ約27個体のシロツメクサを採取した。計3300個体のシロツメクサを用いて、都市から郊外までのシアン産生能および構成因子の有無の空間変異を調べた。これらから、主に被食圧によって、シアン産生能の集団内頻度が変化することがわかった。また、人工地表面率がシアン配糖体生成の集団内頻度に影響していた。これは、都市化による人工地表面率の勾配によってシアン生成の構成因子である配糖体生成・非生成の適応進化が駆動され、加えて、モザイク状の自然緑地に起因する被食圧の影響が重なることによってシアン生成という防衛形質の適応進化が決定づけられるものと考えられる。


日本生態学会