| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-179  (Poster presentation)

景観遺伝学的解析に基づくニホンイノシシの分散パタン
Dispersal pattern of the Japanese wild boar Sus scrofa leucomystax based on landscape genetic analysis

*山崎裕治, 清水大輔, 渡辺拓実(富山大学)
*Yuji YAMAZAKI, Daisuke SHIMIZU, Takumi WATANABE(Univ. Toyama)

ニホンイノシシSus scrofa leucomystaxは、本州中部以北でその生息範囲を拡大させており、それに伴う生態系の攪乱や農作物被害の増加が懸念されている。現在、富山県に生息する本種は、周辺地域から複数の経路で移入してきたことが示唆されているが、その詳細は明らかにされていない。そこで本研究では、富山県および周辺地域におけるニホンイノシシの分散パタンを明らかにするために、景観遺伝学的解析を行った。まず、対象地域全域における本種の出現地点を予測するために、実際に出現が確認された地点の情報と複数の環境変数とを用いて、MaxEntモデルを作成した。その結果、出現地点の予測には標高と積雪深が強い効果を持つことが示された。そして出現確率の高い地点は、石川県から富山県にかけては直線状かつ規則的に配置されたが、新潟県では不規則に配置された。次に、マイクロサテライトDNAに基づく集団構造解析の結果、2つの遺伝的グループ(IとII)の存在が示された。それらの空間的配置は異なる傾向を示し、富山県東部地域では両グループの個体が出現したが、新潟県にはグループIの個体が、富山県中部以西と石川県にはグループIIの個体が、それぞれ高頻度に出現した。以上の情報に基づき、景観遺伝学的解析として、個体間における距離による隔離(IBD)および抵抗による隔離(IBR)の効果を検証した。その結果、グループIIにおいて、IBDの効果が検出され、加えて標高、積雪深、そしてMaxEntモデルから推定された変数のそれぞれにおいて、IBRの効果が認められた。一方、グループIにおいては、いずれの効果も検出されなかった。以上の結果から、ニホンイノシシの分散パタンは地域ごとに異なり、富山県中部以西と石川県では、直線状に並ぶ出現確率の高い場所を利用した一方向性の分散が生じているのに対して、出現確率の高い場所が不規則に存在する新潟県では、分散方向に明確な規則性が生じていないことが推察される。


日本生態学会