| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-235  (Poster presentation)

イタチ科における水生適応に関連した出生時体サイズの進化
Evolution of neonatal body size associated with aquatic adaptation in Mustelidae

*原野智広(愛知学院大学), 沓掛展之(総合研究大学院大学)
*Tomohiro HARANO(Aichi Gakuin Univ.), Nobuyuki KUTSUKAKE(SOKENDAI)

生息場所の移行は、多くの形質の進化に影響する可能性がある。イタチ科内の1つのクレードを構成するカワウソ類は主に水域で生活し、カワウソ類の1種であるラッコはほぼ完全な水生である。イタチ科では、陸生から水生への移行に応じた形質の進化が起こっていると考えられる。
系統種間比較において、シミュレーションに基づく近似尤度および近似ベイズ計算を利用した手法によって、一部の分類群で特異的な形質進化が起こっているかどうかを検証できる(Harano & Kutsukake 2018)。この手法を用いてイタチ科における体重の進化を分析すると、カワウソ類で特異的な大型化の方向性選択の作用が検出され、ラッコでさらに強い選択は検出されなかった。このことは、陸生から水生に移行すると、体サイズが大きくなる選択を受けることを支持している。
ラッコを除くカワウソ類は陸上と水中の両方に依存して生活しており、陸上で出産する。ラッコは生活史をすべて水中で完結することができ、通常、海で出産する。ラッコでは新生児の体サイズが、水中での生活による選択を受けているかもしれない。新生児の体サイズを増大させる選択は、リターサイズ(一度の出産で生む子の数)を減少させると期待される。なぜなら、親が繁殖に投資できる資源が有限であれば、子のサイズと数の間でトレードオフが生じるからである。
イタチ科において、成獣体重の影響を統制した上で新生児体重とリターサイズのそれぞれの進化を分析するために、上述の手法を適用した。ラッコを除くカワウソ類で特異的な方向性選択の作用は検出されなかったが、ラッコで新生児体重が大きくなり、リターサイズが小さくなる特異的な方向性選択の作用が検出された。これらの結果は、完全な水生への移行によって、親の体重の割に大きな子を産むように選択が働き、子のサイズと数のトレードオフにおける進化が生じることを示唆している。


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