| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-270  (Poster presentation)

コウノトリ日本集団のMHCクラスII領域の多様性
Genetic diversity of Oriental White Stork MHC class II region in the Japanese population

*内藤和明(兵庫県立大・地域資源), 厚見卓郎(京大・農), 谷口幸雄(京大・農)
*Kazuaki NAITO(RRM, Univ. of Hyogo), Takuro ATSUMI(Fac. Agr., Kyoto Univ.), Yukio TANIGUCHI(Fac. Agr., Kyoto Univ.)

コウノトリの野外繁殖個体群は1971年に日本から絶滅したが,2005年から行われてきた再導入により約250個体が野外に生息している.野外個体のほとんどは飼育下の創始個体の子孫である.日本のコウノトリ集団における遺伝的多様性の研究は,ミトコンドリアDNAやマイクロサテライトを基に勧められてきた(Yamamoto et al. 2000, Murata et al. 2004, 内藤ほか 2012).しかし,ミトコンドリアDNAは母系遺伝するため父系の情報が含まれず,また中立マーカーであるマイクロサテライトは環境への適応を必ずしも反映していない.飼育集団では家系が完全に記録され,野外集団においてもほぼ全ての個体が足環で識別可能なため,現在は家系情報を活用した遺伝的管理が行われている.家系情報も,血縁度に基づいた解析を基本としているため,実際の遺伝子型を考慮していない.一方で,環境への適応や生存性に関連する遺伝マーカーとして主要組織適合遺伝子複合体(MHC)があり,これまでに日本国内コウノトリ個体群の創始6個体についてMHCクラスII領域のハプロタイプ10種類が同定されている(Tsuji et al. 2017).本研究では,日本国内個体群のMHCクラスII領域の多様性を明らかにするために,創始個体あるいはそれに近い個体のハプロタイプを同定し,創始集団が保有するハプロタイプの特定を試みた.その結果,創始5個体と創始個体の後代20個体から新規の11種類が検出され、これまでに合計で21種類のハプロタイプが確認された.この値は,絶滅が危惧されない種の集団が持つ多様性よりは低いが,トキの創始集団よりは高い.解析対象個体の家系情報を基に創始個体のハプロタイプを推定した結果,飼育集団の創始25個体および野生1個体が持つ合計52のハプロタイプのうち,41のハプロタイプが確定された.


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