| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-278  (Poster presentation)

長野県におけるシカの生息分布域拡大がカモシカの生息状況に及ぼす影響
Impact of expanding deer habitat distribution on serow in Nagano Prefecture

*八代田千鶴(森林総合研究所関西), 柳澤賢一(長野県林業総合セ)
*CHIZURU YAYOTA(Kansai Res. Ctr., FFPRI), KENICHI YANAGISAWA(Nagano Pref. Forest. Res. Ctr.)

近年、全国でシカの個体数増加と生息分布域拡大により、農林業被害の増加や森林生態系に対する影響が報告されている。また、下層植生の衰退や土壌の流亡などが生じている地域では、他の野生動物の生息に対する影響も懸念されている。特に餌資源の競合するカモシカとシカが同所的に生息する地域では、シカの増加が原因でカモシカの個体数減少や生息分布域の変化が生じている可能性が指摘されている。長野県では全域にカモシカが生息している一方で、シカは生息が確認されていなかった県北部および西部へ近年分布域を拡大しつつあり、カモシカへの影響が懸念されている。そこで本研究では、シカの生息分布域の拡大がカモシカの生息状況に及ぼす影響を検討するために、シカの生息密度が異なる地域を選定し両種の生息状況を調査した。調査対象地域は、シカが高密度に生息する地域2カ所(塩尻市、下諏訪町)および近年シカが増加しつつあるが現在は低密度の地域2カ所(南木曽町、王滝村)とした。各調査対象地域の森林に設定した約4km四方の調査区内にセンサーカメラを設置した。撮影された画像を判別し、両種の撮影頭数(/日/台)を解析した。また、秋季と春季にカメラ設置地点周辺の階層別植被率を記録した。その結果、シカの高密度生息地では低密度生息地に比べ、季節にかかわらず草本層の植被率が低く、シカの撮影頭数は多い傾向がみられた。特に、低木層の植被率も低かった下諏訪町の調査地では、カモシカはほとんど撮影されなかった。また、南木曽町では王滝村よりシカの撮影頭数が多かったが、両地域で草本層および低木層の植被率に大きな違いはなく、カモシカの撮影頭数は同程度であった。以上のことから、シカの生息密度の増加によるカモシカへの影響は、草本層に加えて低木層の植生が衰退すると顕著になると考えられた。


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