| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-279  (Poster presentation)

エゾナキウサギの在不在・個体数調査における直接観察法とプレイバック法の有効性評価 【B】
Evaluation of direct observation and playback method for surveying occupancy and abundance of Japanese pika 【B】

*崎山智樹, Jorge GARCíA MOLINOS(北海道大学)
*Tomoki SAKIYAMA, Jorge GARCíA MOLINOS(Hokkaido Univ.)

ナキウサギは寒冷環境に適応してきた小型哺乳類であり、気候変動は存続の脅威となっている。北海道に生息するエゾナキウサギも脆弱性が予想されるため、本種の在不在や個体数を把握するための手法の検討が重要である。他種のナキウサギを対象とした調査法は糞や貯食の探索など視覚条件に基づくが、これらの調査は植生が密な北海道の生息地では適用しにくいため、本研究ではエゾナキウサギが発する鳴き声に着目した調査手法の有効性を評価した。野外調査は、2021年夏に大雪山系とその周縁山麓の岩塊地18ヶ所において実施した。調査手法として、自然条件下においてエゾナキウサギの鳴き声を聞く直接観察法と、スピーカーから再生した本種の鳴き声に対する鳴き返しを聞くプレイバック法を用い、本種の在不在を鳴き声の有無により判定した。個体数は直接的な推定が困難なため、本種の鳴き声の方向と距離を考慮することで識別された個体の数を指標とした。両調査ともに鳴き声を聞く時間を5分間に設定したが、直接観察は10回続けて行うことで、調査が短時間(1回目のみ:5分)と長時間(2-10回目:計45分)の場合における評価値を得た。手法の有効性の比較は、在不在調査の結果については混同行列を作成し、個体数調査の結果については線形混合モデルを用いて行った。調査の結果、18地点中11地点においてエゾナキウサギの生息が確認された。混同行列により、短時間の直接観察では在の見落としが多い一方で、長時間の直接観察やプレイバックにおいては見落としが少ないことがわかった。線形混合モデルからは、プレイバックが長時間の直接観察の結果の予測に適していることがわかった。以上より、エゾナキウサギの在不在や個体数を調査する上では、プレイバックが長時間の直接観察と同等の検出力を持つことが示唆された。これらの手法を用いることで、気候変動がエゾナキウサギに与える影響を評価できると考えられる。


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