| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-294  (Poster presentation)

絶滅危惧種マツモトセンノウの生育環境と季節消長
Habitat and phenology of the Endangered species Silene sieboldii (Van Houtte) H.Ohashi et H.Nakai (Caryophyllaceae)

*高岸慧(東京農業大学), 宮本太(東京農業大学), 佐藤千芳(熊本植物研究所)
*Kei TAKAGISHI(Tokyo Univ. Agriculture), Futoshi MIYAMOTO(Tokyo Univ. Agriculture), Chiyoshi SATO(Plant of Kumamoto Labo.)

ナデシコ科マンテマ属マツモトセンノウは、最終氷期に大陸より分布を広げた大陸系遺存植物と考えられ、熊本、宮崎の半自然草原に生育し、絶滅危惧II類に指定されている。本種が生育する草原は、牛の放牧、採草、野焼きなど人々の営みの中で維持されてきた。しかし、畜産業の衰退により、管理放棄が進み、本種の生育が危惧されている。本種の保全を進めるためには種の基礎的な情報が必要である。本研究ではマツモトセンノウの生育環境と季節消長を明らかにすることを目的とした。これらの成果は、マツモトセンノウの保全における基礎的な資料になると共に、阿蘇草原の保全にもつながるものと考えられる。
マツモトセンノウの出芽は野焼き後の4月に、その後シュートの伸長と展葉が進み、6月に開花、8月に結実し、その後萎凋が進み11月に地上部が萎凋した。調査区内に472個体が観察され、それらの生育は北向き斜面に集中分布していた。南北に設置したライントランセクトでは植物群落が4分割され、オオアブラススキ・クサアジサイ群落、ゼンマイ・ヤマアザミ群落に本種が生育していた。総出現種数は北向き斜面81種、谷部55種、南向き斜面57種であった。マツモトセンノウの生育期間中の積算日射量は北向き斜面中部、南向き斜面頂部で高い値となった。土壌水分率は北向き斜面のオオアブラススキ・クサアジサイ群落で22 %、ゼンマイ・ヤマアザミ群落で27 %、谷部のフキ・シシウド群落で34 %、南向き斜面のシシウド・クサフジ群落で17 %であった。
今回の調査で同一個体で3年続けて開花する個体が確認されたことから、本種は多回繁殖型多年生草本であることが明らかになった。
マツモトセンノウが集中的に生育する北向き斜面の中部は、日射量が高く土壌水分率が谷部に次いで高いことから、本種の生育適地は日当たりが良く湿潤な環境であると考えられる。北向き斜面は南向き斜面と比較して種多様性が高い事が明らかになった。


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