| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-295  (Poster presentation)

生息地の分断化に依存したマトリックス効果~サーキット理論を用いた個体群モデル~ 【B】
Matrix effects depend on habitat loss and fragmentation: insights from spatially-explicit population modelling using circuit theory 【B】

*山浦悠一(オーストラリア国立大, 森林総合研究所), Robert J FLETCHER(Univ Florida), Steven J LADE(ANU, Stockholm Univ), 比嘉基紀(高知大学), David LINDENMAYER(ANU)
*Yuichi YAMAURA(ANU, FFPRI), Robert J FLETCHER(Univ Florida), Steven J LADE(ANU, Stockholm Univ), Motoki HIGA(Kochi Univ), David LINDENMAYER(ANU)

 分断化景観でのマトリックスの改善は有望な保全手法だが、マトリックスの透過性(生物がマトリックスに入る確率)と移動生存率は通常まとめて扱われ、いずれのマトリックスの属性を改善すべきか不明である。マトリックスを移動通路から繁殖の機会を提供するまで改善すると大きな保全上の便益が得られるのか、生息地とマトリックスの管理の間に交互作用があるのかも不明である。
 私たちは、人口統計学的過程とサーキット理論に基づいた移動モデルを統合したシミュレーション実験を行ない、地域個体群にマトリックスが及ぼす影響を調査した。ここで異なるマトリックスの属性としてマトリックスの透過性と移動生存率を個別に変化させ、個々の影響を評価した。また生息地だけでなく改善したマトリックスの量と配置も変化させ、個体群統計量(サイズ、生存、密度)に及ぼす影響を調査した。
 移動通路としてのみ機能するマトリックスの一部を改善する場合、移動生存率を一定にしてマトリックスの透過性を増加させるとすべての個体群統計量が特に生息地が分断化した場合に大きく減少した。対照的に、移動生存率が増加すると、個体群統計量は生息地の分断化の進行に伴って増加した。マトリックスを移動通路から繁殖の機会を提供するまで改善すると、生息地の量が中程度の際に個体群生存率への便益は大きかった。生息地と改善マトリックスの量の間には相乗効果があり、マトリックス改善の便益は空間的にまとめて改善を実施すると大きくなった。
 マトリックスの改善と連結性のモデリングは移動生存率の増加を目指して行なうと、透過性のみを改善する場合に比べて保全上の便益が大きいだろう。改善マトリックスで残存生息地の緩衝帯を設け、残存生息地間を連結させることは、移動生存率が増加するならば便益を生むだろう。生息地の保護・再生とマトリックスの改善を同時に実施すれば、相乗的な保全上の便益がもたらされるだろう。


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