| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-303  (Poster presentation)

放棄草原での草刈と防鹿柵による植物とチョウの回復~2年目の結果~
Restoration of plants and butterflies by mowing and deer fence in an abandoned grassland - two years experiment

*大脇淳, 北原正彦(山梨県富士山研)
*Atsushi OHWAKI, Masahiko KITAHARA(Mount Fuji Research Institute)

数多くの絶滅危惧種が生息する草原は保全の優先順位が高い環境の一つである。山梨県富士北麓は今も貴重な草原が残されているが、草原によっては約60年管理放棄され、近年はシカの食害も顕著である。演者らは草刈とシカ柵の設置によって放棄草原の生物多様性がどの程度再生するか評価するために、放棄草原内に草刈とシカ柵設置を行い、野外実験を実施している。本講演では、草刈とシカ柵設置の実施前と実施後2年間の植物とチョウの変化を報告する。
富士北麓の放棄草原の一つに25 m四方の方形区を二つ設置し、片方をシカ柵設置区、もう一方を非設置区とした。また、この方形区を半分に分割し(この単位をプロットとする)、片方を草刈区、もう片方を非草刈区とした。このセットを草原内に4つ設置した。2019年に実験前の状況を、2020~2021年に実験後の状況を調査した。植物はプロット内に1 m四方のコドラートを12個設置し、初夏(6月中旬:開花植物のみ)と初秋(8月末~9月中旬:全植物)に各種の在不在と開花状況を1~4のスコアで記録した。チョウはプロット単位で調査を行った。2019~2021年の植物(コドラート単位)およびチョウ(プロット単位)の種数や量を応答変数、草刈とシカ柵の有無を説明変数、セットをランダム効果とする一般化線形モデルで解析した。
植物、チョウともに実験前には草刈、シカ柵プロット間で明瞭な差はなかったが、実験後に植物総種数は草刈の正の効果が、虫媒草原性植物種の開花量とチョウは実験後にシカ柵の正の効果が検出された。この効果は実験1年後より2年後の方が顕著になり、開花量は2年後に草刈かつシカ柵プロット(草刈とシカ柵の正の交互作用)で最も高くなった。本研究より、草刈とシカ柵単独ではなくその組合せが植物やチョウの増加に寄与すること、年を通じて効果がより顕著になることが明らかになった。


日本生態学会