| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-308  (Poster presentation)

捕獲した野生動物集団の遺伝的構成を維持するための新しい遺伝的管理法
A novel genetic management procedure for preserving the genetic composition of captive founders

*本多健, 大山憲二(神戸大学)
*Takeshi HONDA, Kenji OYAMA(Kobe Univ.)

 捕獲野生動物集団の遺伝的構成(遺伝子頻度)を維持することは,生息域外保全における繁殖計画を立案する上で重要な目標の一つである.この問題に対しては,現在,捕獲始祖個体間の血縁関係が不明であると仮定して算出される集団の平均共祖係数(f)が最小になるように,親の次世代への寄与(次世代に残す子の数)を決定する方法(MC法)が最も効果的であると考えられている.本研究は,捕獲始祖個体間の血縁関係がDNA多型マーカーによって正確に推定することができるようになった場合に,上記の問題に対して有効であると思われる新しい集団の遺伝的管理法(MD法)を提案し,その有用性をコンピュータ・シミュレーションによって検証する.
 本発表ではまず,捕獲始祖個体間の血統情報が不明の場合と明らかな場合について,捕獲始祖集団から捕獲現存集団までの間における遺伝的構成の変化量を任意の中立遺伝子の頻度を用いて表現し,前者の場合にはこの変化量が捕獲始祖集団を血統情報の開始地点とした場合の捕獲現存集団の平均共祖係数(f)に依存するのに対して,後者の場合にはこの変化量が野生始祖集団を血統情報の開始地点とした場合の捕獲始祖集団と捕獲現存集団の間の最小遺伝距離の2倍(dm)に依存することを示す.
 コンピュータ・シミュレーションでは雌雄同体の生物を想定し,25世代のランダム交配を経験した野生集団の一部をランダム・サンプリングすることで捕獲始祖集団を構成させ,その後,20世代にわたって捕獲始祖集団の遺伝的構成を維持するための3つの遺伝的管理法(EQ法(個体間の血縁情報を利用しない管理法),MC法およびMD法(次世代のdmが最小になるように親の寄与を決定する管理法))を適用した.MC法とMD法の間に有意差は認められなかったが,対照区であるEQ法に対する優越度を比較したところ,多くの状況下でMD法が有利であるという結果が得られた.


日本生態学会