| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-310  (Poster presentation)

駒止湿原開拓農地跡の環境特性および共生微生物のブナ植樹への利用
Environmental characteristics and application of symbiotic fungi for planting of beech seedlings in the abandoned cropland around Komado-Shitsugen

轟丈瑠(茨城大学), 郭永(茨城大学), 野口愛(茨城大学), 高島勇介(筑波大学), 西澤智康(茨城大学), 成澤才彦(茨城大学), *坂上伸生(茨城大学)
Takeru TODOROKI(Ibaraki Univ.), Yong GUO(Ibaraki Univ.), Mana NOGUCHI(Ibaraki Univ.), Yusuke TAKASHIMA(Univ. Tsukuba), Tomoyasu NISHIZAWA(Ibaraki Univ.), Kazuhiko NARISAWA(Ibaraki Univ.), *Nobuo SAKAGAMI(Ibaraki Univ.)

福島県南部に位置する駒止湿原周辺には,農地として利用するためにブナ二次林が伐採された50ha超の開拓跡地が広がっている。2000年よりブナ林再生を目指した植樹事業が行われてきたが,ススキに覆われ,植樹されたブナが枯死あるいは生育不良となってしまう区域も認められている。土着の微生物に着目した先行研究では,植樹ブナが生育不良となる区域では,ブナの生育を支える共生菌類が少ないことが示されている。一方,開墾跡地の大部分は現在ススキ草地となっているが,植生景観は一様ではない。本研究の目的は,土着の微生物に着目しながら開墾跡地の植生・土壌環境を精査し,ブナの生育を支える共生菌類として選抜した共生菌類を用いて植樹試験を実施し,ブナ林再生に向けた共生菌類利用に関する総合的な知見を獲得することとした。
開墾跡地の多様な土壌・植生環境を把握するため,植生の類型化を行い,土壌・植生調査および山引き苗の植栽試験を行ったところ,ススキが優占する区域に植栽した山引き苗生残個体における外生菌根形成率は低い値を示し,NMDSによる外生菌根群集の類似性の結果では,開墾跡地のススキ草地に自生している実生に類似していた。一方,先駆樹種であるカンバが定着し森林化が認められる区域では,土壌中の菌類の多様性が増加する傾向が見られ,外生菌根群集のα多様性はブナ林内部に自生する実生と同程度であった。同区域では植栽した山引き苗の生育が良好で生残率が高く,ブナの天然更新あるいは山引き苗を利用したブナ林への誘導が期待できた。
共生菌類を用いた植樹試験において,植樹から2年目以降は対照区に比べ共生菌接種区で主幹伸長量が大きかった。微生物群集構造解析の結果では,共生菌類の接種が地下部の微生物動態に及ぼす明瞭な影響は明らかにならなかったものの,攪乱後の環境下の土壌・植生環境を考慮して共生菌類を選抜し,植樹試験に利用することの有益性が示唆された。


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